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公男は、棚に山積にしている生地の中から、二つの生地を取り出すと
大きなテーブルの上に広げ、型紙も取らず、直に物差しを当て
チャコで、寸法を書き、鋏でジャキジャキと裁断する。
「お前たちは、風呂の火を見ておけよ」そう、命じると
もう、ダダダッと、ミシンを掛け始めた。
二人は、風呂の焚口に座って、燃える火を見ながら、体も温める。
「本当に、変なお爺さんだね」「ああ、変わってるな~」
「普通、どこから来たのとか、名前はとかを、一番に聞く筈だよね」
「そんな事より、俺達の服を作る事を、最優先するなんてな~」
それでも、二人の素性を、あれこれ聞かないのは、二人には、有り難かった。
暫くすると「もう、薪は、くべなくて良いぞ、風呂に入れ」と、公男は言う。
始めに遥を、風呂に入れ、出てきた遥に
「ほれ、寝間着だ」と、公男が渡したのは、ワンピースみたいな服だった。
「もう出来たの?」「ああ、寝間着だからな」
遥に着せたワンピースを見て、公男は満足そうに言う。
続いて、風呂に入った嶺二が、風呂から上がると
パジャマが出来ていた、それも、嶺二の体に、ぴったりだった。
「凄い、ぴったりだ」嶺二がそう言うと
「当たり前だ、寸法を測ったんだからな」と、これも満足そうな顔になり
「俺が作った服を、着てくれる者が、居てくれて嬉しいよ」と言う。
人とも付き合わず、酒も煙草も飲まず、ただ、服を作るだけの毎日。
作った服は、どんどん増えるが、誰も着てくれる者は居ない。
それで、被災地や、恵まれない子に送ったりしていたので
自分が作った服を、目の前で着ているのを見るのは、初めてだと、喜ぶ。
公男の部屋には、ちょっとした手芸店位の、様々な生地が有る。
公男は、その中から、綿の生地を取り出すと、またミシンを掛け
二人のショーツと、トランクスまで作った。
「ほら、下着も出来たぞ、よく考えたら、下着を作る方が、先だったか」
公男は、使ったゴム紐を仕舞いながら、そう言って笑った。
そして「明日は、町に行って、靴を買わないとな」と、言う。
「町って、近いんですか?」嶺二がそう聞くと
「車で、40分くらいだな」と、言う。
さっき、風呂の焚口に行く途中で、軽四輪が有るのを見ていた。
あれで行くのか、だが、一応服は着ていても、こんな顔だ。
町に行って、買い物をしても良いのか、二人には不安だった。
「ちょっと縁側まで来い」そう言われて行くと、ケープを掛けられ
鋏で、ジャキジャキと、髪の毛を切られる。
伸び放題だった、嶺二の髪は、すっきりと短くされ
遥も、ボブスタイルの、短いものになっていた。
その手際の良さに「美容師さんみたい」と、遥が言うと
「鋏を扱うのは、慣れてるからな」と、公男は、また笑う。
そして、家の横に有る、納屋に行くと、ジャガイモと玉ネギを持って来て
「今夜は、カレーにしよう」と、カレーを作ってくれた。
「わぁ~久しぶりだ~」二人は、大喜びで、カレーをかきこむ。
「旨いか?」そんな二人を見て、公男は嬉しそうに聞く。
「はい、こんなに美味しいカレーは、初めてです」
「そうか、米も野菜も、自家製だからな」という事は、野菜だけでなく
米も作っているのかと、二人は知る事になる。
「お代わり、良いですか?」「嶺二、食べ過ぎだよ」「遥だって、、」
その二人の言葉で、公男は、やっと二人の名前を知った様だったが
「玲、春、明日は早いからな、もう寝ろ」と、自分勝手な文字と
短く縮めた言葉で呼ぶ様になった。
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