もと居た場所

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もと居た場所

公男の家から、町までは、緩い坂道だった。 普通の中学生なら、登りは、きつい所だが、レベルマックスな二人にとって どんな坂道であっても、楽々と登れる。 「普段は、仕事ばかりしているんだ、たまには町に行って 好きに遊んで来い」と、公男は、二人に小遣いまで呉れる。 「じゃ、行ってきま~す」二人は、朝早くに家を出て、町まで行き そこから電車に乗って、元、自分が住んでいた町まで行く事にした。 二人の住んでいた場所は、割と近い隣町同士だった。 だから、事故にも一緒に有ったのだが、帰りの時間に合わせて 待ち合わせ場所を決め、それぞれの町へ行く。 嶺二は、自分が住んでいた所を見て驚愕した。 家も、丹精込めて育てていた畑も、全て無くなり 建売住宅が並んでいたからだ。 嶺二が死んで、住む者が居なくなった家や畑は、親戚の手で売られた様だ。 『まぁ、俺は死んでしまったんだ、仕方が無い」そう思っても 長年住んで、思い出が一杯の家が無くなったのは、やはり、悲しかった。 「祖父ちゃん、、」墓に行ってみると、先祖代々の墓石には 祖父の名前の隣に、自分の名前も彫られていたが お参りする人も居ない様で、荒れていた。 嶺二は、墓の掃除をし、持って来た花も供え、手を合わせる。 『自分の墓に、手を合わせるなんて、変な気持ちだな~』そう思いながら こうして生きているのに、俺には戸籍も何も無い 世間的には幽霊なんだと、思い知らされる。 一方の遥にも、衝撃的な事が有った。 家の前まで来たが、家は、見違える様に綺麗で、お洒落になっていた。 新しい表札の名前は、野上だったが、遥の名前は無い、当然だった。 その遥に「新しくなって、見違えたでしょ」と、言って来たのは 隣の、お喋り婆さんと呼ばれている、金子だった。 遥が、黙っていると「こんなに立派に、リフォーム出来たのは 遥ちゃんのお陰なんだよ」と言う。 「え?」こんなに小さいのに、私の事が分かるのかと、驚いたが 「遥ちゃんって言うのは、ここの家の娘さんでね、交通事故で死んだんだ」 何だ、気付いて無かったのかと、遥が、安心していると 「遥ちゃんは、まだ若かったし、何の落ち度も無いという事で 事故の補償金が、たっぷり入ったし、御主人は、遥ちゃんに 一億もの生命保険を掛けていてね~」 「ええっ、一億?」遥は、驚きの声を上げる。 あのケチな男が、そんな保険を?遥が、驚いたのに、気を良くした金子は 「そうだよ、病気じゃ無くて事故で死んだからね~」と、言う。 「御主人は、実の子じゃ無いから、あまり悲しそうじゃ無くてね。 奥さんの方は、暫くは悲しんでいたけど、大金が入って 家もリフォームした頃から、元気になってね、御主人と二人で あちこち、楽しそうに、旅行するようになったよ。 今も、北海道に行ってるんだ、本当は、ハワイに行きたかった様だけど 今は、コロナで行けないからね~」金子のお婆さんは 好きなだけ喋ると、さっさと自分の家に入った。 遥は、呆然と立ち尽くす、私が死んで手に入れたお金で、家を綺麗にし 旅行三昧な両親、、、仕方が無いとはいえ、何だか面白くなかった。
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