桜、さくら

2/3
前へ
/3ページ
次へ
    ◇  ◇  ◇ 「田尾(たお)ってさ、やっぱ春生まれ? 『さくら』って名前」  高校二年生直前の春休みだった。あたしの十七歳の誕生日の数日前。もう桜が咲いてたのだけは覚えてるわ。毎年早くなるよね、ってそれこそ毎年のお約束みたいな会話を交わしたのも。 「そうだよ。もう来週誕生日なんだ。良くある名前だし、春以外でもつける人いるかもしれないけどあたしは四月のはじめ。お母さんがあたしを生んで入院してた時、窓から満開の桜見えたんだって。安易でしょー」 「そうかな。いい名前だと思うよ、俺。田尾に似合ってる。……可愛くて」  塾で一緒だった他校の男子。テキスト忘れた彼に頼まれて見せたことで、なんとなく話すようになった相手だった。 「奥野(おくの)くんも国立志望でしょ? 二人とも受かったらいいね」  地元には、自宅通学できる国立大学は一校しかない。だから中高生が『国立』って言えばそれはもう決まってるのよ。 「うん。そしたらさ、……いや、また」 「? なに?」 「なんでもない」  はにかんだような笑顔。優しかった男友達。あの時はまだ、ただの友達だった。受験があるから。恋愛にうつつ抜かしてる場合じゃない。子どもだってそれくらいの分別はあったのよ。  ──もし同じ大学に通えていたら、きっと関係は変わってた、んじゃないかな。夢見がちな女子高生の希望だけじゃなかったと思う。今も。b9501262-624f-44bc-b9d0-5f41c6b2a854【奥野くん】 タナカネイビーさまに素敵な挿絵イラストを描いていただきました~(*'▽') https://estar.jp/pictures/26095170
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加