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◇ ◇ ◇
「田尾ってさ、やっぱ春生まれ? 『さくら』って名前」
高校二年生直前の春休みだった。あたしの十七歳の誕生日の数日前。もう桜が咲いてたのだけは覚えてるわ。毎年早くなるよね、ってそれこそ毎年のお約束みたいな会話を交わしたのも。
「そうだよ。もう来週誕生日なんだ。良くある名前だし、春以外でもつける人いるかもしれないけどあたしは四月のはじめ。お母さんがあたしを生んで入院してた時、窓から満開の桜見えたんだって。安易でしょー」
「そうかな。いい名前だと思うよ、俺。田尾に似合ってる。……可愛くて」
塾で一緒だった他校の男子。テキスト忘れた彼に頼まれて見せたことで、なんとなく話すようになった相手だった。
「奥野くんも国立志望でしょ? 二人とも受かったらいいね」
地元には、自宅通学できる国立大学は一校しかない。だから中高生が『国立』って言えばそれはもう決まってるのよ。
「うん。そしたらさ、……いや、また」
「? なに?」
「なんでもない」
はにかんだような笑顔。優しかった男友達。あの時はまだ、ただの友達だった。受験があるから。恋愛にうつつ抜かしてる場合じゃない。子どもだってそれくらいの分別はあったのよ。
──もし同じ大学に通えていたら、きっと関係は変わってた、んじゃないかな。夢見がちな女子高生の希望だけじゃなかったと思う。今も。【奥野くん】
タナカネイビーさまに素敵な挿絵イラストを描いていただきました~(*'▽')
https://estar.jp/pictures/26095170
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