とおい世界の物語 

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とおい世界の物語 

ずーっと昔の話 天の国に嘘をつけない神様が住んでいました。 「嘘をついたら君は消えてしまうからね」 神様の創造神はそう言いました。 その言いつけを守り、神様は決して嘘はつきませんでした。 天の国では彼が言ったことに嘘はないと、慕う者もいれば、本当のことしか言えない神様を厄介者扱いする者もおりました。 ある日、神様は仲のいい女神が泣いているのを見つけ声をかけました。 女神は恋をしてはならない悪魔に恋をしてしまったらしく、もう会ってはいけないと、創造神に強く言われてしまったようでした。 傷心の女神が気がかりの神様は、共に行動することが多くなり、やがて一途な彼女へ恋をしたのでした。 それからも女神は悪魔に恋焦がれ、涙を流すこともありました。 女神と悪魔の恋など許させるわけもない。 それなら… 「僕と結婚しませんか」 女神は驚きました。 神様は話を続けます。 「僕は神だから、誰かに反対されることもない。それに僕は愛してる君が悲しみ続けるのはとても辛い、僕の元へおいでよ」 神様は嘘をつけない、このことは女神もよく知っていました。 この言葉は神様の本心以外のなにものでもない… 女神はここ数日神様と過ごした日々を思います。 とても心穏やかな神様との日々は、自分の悲しみを癒してくれた。 この方とだったら幸せな恋が出来るかもしれないと、女神は嘘のつけない正直な神様を信じ、その手を取ることにしたのでした。 それから時は過ぎ、芽吹く季節にそれは起きました。 魔界と天界を隔てる門が開けられ、悪魔が侵入してきたのです。 その話は、神様と女神2人の耳にも届きました。 女神はそんな訳はないと自分に言い聞かせましたが、恋焦がれたあの悪魔ではないかという思いを消すことができません。 止める神様を振り切り、女神は魔界の門へと向かいました。 女神が魔界の門の前に到着した頃には、辺りにもう他の者の姿はありませんでした。 もしかしたら魔界に還されたのかも… 諦めて戻ろうとしたその時、後ろから懐かしい声が女神に話しかけてきました。 「すまない、迎えに来るのが遅くなった」 それは女神が恋焦がれた悪魔の姿、女神は悦びに心が躍りました。 しかし、ふと神様の顔が頭をよぎり、女神は悪魔へ差し出そうとした手を止めるのでした。 その様子を、神様は遠くから見てました。 女神のあんなに嬉しそうな顔は、今まで見たことがありません。 本当に愛しているんだろう、この極楽の世界を捨てたとしても、一緒に行きたいと思っているんだろう。 愛する人のためになれるなら、僕は… 神様は意を決して2人の前に姿を見せました。 女神は瞳に涙を溜め、言葉が出てこない様子で神様の方へと視線を移し、すぐに俯いてしまいました。 その彼女を庇うように前に出た悪魔は、今にも飛びかかってきそうな目で神様も睨みつけます。 あぁ、愛し合っているんだな… 少しの間を置いて、神様は口を開きました。 「いやー、よかったですね、2人とも。今日は天界の者が、好きな場所へと行っていい日なんですよ」 2人は不思議な顔で神様を見ています。 「魔界で彼と暮らすのもいい、別の国に行って暮らすのもいい、いい日に迎えにいらっしゃいましたね、悪魔さん」 女神と悪魔は顔を見合せ、再度神様へと視線を戻します。 女神は嘘がつけない神様が言っていることだから、これは本当のことに違いないと思いましたが、すでに夫婦の誓いを立てた女神は戸惑いを隠せません。 「しかし私たちは夫婦の約束を…」 神様は女神の言葉を遮り続けます。 「もう、君は泣かなくていいんですね、それであれば僕のことは気にしなくていい。僕は大丈夫です。彼のところに行ってあげてください」 女神は言葉が出ず、ただ神様を見つめます。 神様は続けます。 「行ってください、僕は君が笑顔でいてくれるだけで、それだけでいいんです」 その言葉を聞くと2人は決意し、手を取り合い魔界の門へと向かいました。 神様はそんな2人が見えなくなるまで、見送りながら呟きます。 「さよなら、愛する人」 この時、神様は生まれて初めて嘘をつきました。 愛する人が先に進めるように、天の国にはないルールを嘘吹き、そしてなにより、心優しき愛する人が振り向かないように、自分は大丈夫だと自分に嘘をついたのです。 やがて神様の体は崩れ始め、その崩れた体は花びらとなって舞い上がり、どんどん形を保てなくなっていきました。 最後に残った顔は満足そうに、誰にも聞こえない声でこう呟きました。 「どうか君が幸せでありますように」 その言葉を最後に、神様だった花びらたちは風に舞い、天の国を淡いピンク色で染め上げていきました。 創造神の元へも花びらは届き、その花びらを手にした時に、創造神は神様に起きた全てのことを知ったのでした。 そして創造神は、誠実であったあの神のことを考えこう決めました。 「これから年に1回、嘘をついていい日を作ろうか」 その後、天の国では年に1回嘘をついていい日が作られました。 その日付は、あの神様が消えてしまった日とし、創造神はその日にこう名前をつけました。 「エイプリルフール」
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