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バスの中、後部座席で私は由利くんと会話を弾ませる。
「この辺はどう? 隣の県なら気楽じゃない?」
「温泉街近い場所だね。芽々って温泉好きなの?」
「……もおお! やだぁ! まだちょっと早いよお!!」
ーーバシバシッ。
「いたっ!?」
「そうだ、これ」
「光る石……?」
「これ、器と一緒にしてたでしょ? せっかくだからアクセサリーにしようよ」
「……重くてごめん」
「なにが?」
「なんでもない!」
唇を尖らせ、肩に寄りかかってくる。
(ぴゃあああ!? なになに!? 由利くんってめちゃくちゃ甘えん坊!!)
「ふへへ、良いですなぁ。キュンですよ、キュン。好きってこういうことだよぅ」
「……おっさんかよ」
「由利くんもおっさんだよ! 私の自慢のだーいすきなおっさんです!」
歳をとっても一緒にいたい。
そんなことを考えながら私たちは笑った。
色んなことがあったけど、拗らせた日々も悪くなかったと思う今日だった。
(運転しづらい。乗客はいなくても俺はいるっつーの)
バスの運転手、元・ちびっ子のガキんちょが口角をヒクヒクさせながら後部座席の写るバックミラーにチラリと目を向ける。
そこに写った光景に、怖いものなんてなかった。
「今日もいい日だなぁ」
拗らせファーストラブ
【完】
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