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大きな木のある校舎。
真新しい少し大きめの制服に身を包む。
「ぴゃああ、高校生、高校生だよぉ!」
長い間結んできた髪をおろし、ストレートアイロンで背伸びをした。
高校生とはさらさらのストレート髪をなびかせる大人びた存在。
その一員になれているのか、ドキドキしながら足をパタパタとさせていた。
「私、変じゃないかな? ちゃんと制服着れてる? 顔、大丈夫かな?」
手鏡を取り出し、顔を覗き込ませるもだんだんと青ざめていき、勢いよく鏡を閉じる。
「髪下ろすとか調子のってるかな? あーん、今さら悩んでどうするのよぉー!」
長い髪の毛をかきよせて、肩を狭そうにしながらぶつぶつと呟く。
「大丈夫、大丈夫。 なんとかなる」
だがその気休めさえも嘲笑うかのように何もない足元で躓き、思いきり転けてしまう。
荒削りのコンクリートに直撃し、身体を起こして額をさすった。
「いたいよぉ。なんで私ってこんなんなのぉ」
「……大丈夫?」
「ふぇ……?」
間抜けた顔をあげると、そこには大きく開かれた吸い込まれそうなたくさんの色が見えた。
黒色と一言で表すには惜しいほどに、その色は七色レベルに不思議な色をしていた。
お互いにポカーンとしながら視線を交わしたあと、彼はパッと目をそらし、手を差し出してくる。
「立てそう?」
「うん、立てる。ありがとう」
手を取ると、少しだけ皮の厚い不思議な温もりを感じた。
「新入生?」
「うん」
「一緒。オレ、黒咲 由利。よろしくな」
そのはにかんだ笑顔は、あまりにキラキラしていて目を奪われる。
遠い昔に見たような、既視感のある星のような輝き。
いつ、そんな星を見ただろうかと首を傾げるも、ふわふわとした温かさにヘラっと笑った。
「私、時森 芽々」
二人並んで校舎への道を歩く。
「時森って、なんか月みたいって言われない?」
「えっ!? そんなに顔丸い!?」
「いや、そういう意味じゃなくて!」
オロオロしだす姿に緊張が解けていく。
「ふ、あは。もしかして黒咲くんって天然?」
「えぇー? あんまり言われないけどなぁ」
これが私たちの拗らせたファーストラブ。
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