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「じいちゃん、親父。来るの遅くなってごめんな」
たくさんの墓石が並ぶ山奥の墓地。
長年来ていなかった割に綺麗な墓石を見て、由利くんは影をつくる。
墓石の前にしゃがみ込み、じっと無表情に見つめた。
(お墓参り……久しぶりだな)
目を閉じ、目を合わせだした由利くんを見て私もまた同じ動作をする。
由利くんの心境を思うと胸が痛む。
ふと、脳裏に幼い頃の思い出が蘇る。
写真を見ないと思い出すことも出来ない祖母。
手を繋いで歩いた。
それ以外、何も覚えていない遠い遠い過去のこと。
(おばあちゃんのお墓、ちゃんと掃除されてるのかなぁ? おねーちゃん、雑だし……)
「じいちゃん、親父」
ハッと顔を上げ、由利くんに目を向けると真っ直ぐに墓石を見つめる横顔があった。
綺麗な佇まいに、吸い込まれるように魅入る。
「ずっと昔から好きだった人と、お付き合いをすることになりました。これから新しい道へ、二人で進もうと思います」
その言葉に、溢れ出す喜びが笑顔を作った。
迷い、仮面を被り、言葉を飲み込み、義務感に動き、自分が消えていく。
そうやって自分を殺した由利くんが、黒く咲いた百合と決別した。
終わりとはじまり。
ようやくノストラダムスの大予言、恐怖の大王は去っていった。
「時森 芽々です。やっと由利くんを捕まえました。お揃いの器、受け取っちゃったんで由利くんのことはいただいていきます」
「ちょっ、芽々!?」
「私の嫁……じゃなくてお婿さん」
想像しただけでヨダレが垂れそうだ。
「嫁……」
「これからはスーパーハニー、時森 芽々さんが一緒に幸せになりますのでご安心ください!」
「……ふはっ! なんだよ、スーパーハニーって」
「ダメ?」
「ダメじゃない。さすがは芽々だよ。最高に面白い」
「ぴゃああああ!!!?」
キラキラ眩しい笑顔が向けられ、目を焼かれる。
( 溶ける! キュン死にはまだいやだー!)
「さて、あとは時森家に挨拶だね。行こっか」
立ち上がり、差し出された手から光が差し込んできた。
「うん!」
もう失うことがないように。
この奇跡を、一生離さないと誓い手を握り返すのだった。
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