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「なんで男って見栄ばかり張るかな? お前何様よって感じ」
(麻理子様の毒が男性に移ってる! ぴぃぃ、こわ~!)
「めめりん、バス来たよ」
奏が音に気づき、背伸びをして道の向こう側を見る。
エンジン音が大きくなっていき、地方都市行きのバスがやってきて目の前で停車した。
荷物を手に、見送りにきてくれた友人たちを一人ずつ眺める。
胸の痛みは気付かないふりをした。
「そういえば里穂ちん、見送りに来なくてよかったの? 静夜を預かってもらっちゃったけど」
麻理子の疑問に目を丸くし、首を傾げる。
「うーん? 昔から里穂ってそうだからなぁ。 進学の時も放置されたし」
「……それくらいがいいかもね」
昔よりもずっと大人びた表情で奏が微笑む。
高校生のときと変わらないように見えて、やはり相応の年月を過ごした哀愁を秘めていた。
長年離れていたくせに、また再会して、また離れて。
またね、になるとわかっていても寂しさは誤魔化せない。
だからそっと気持ちを共有するように、繋がれた手が握り返されると泣きそうになった。
バスの扉が開き、二人で大地から足を上げる。
「それじゃ、みんなまたな」
「落ち着いたら連絡しまーす」
また、帰ってきます。
それまでさようなら。
ありがとう。
たくさんありがとうございました。
***
バスが出発し、手を振り離れていく二人を見送る。
奏が苦笑いをして腰に手を当てた。
「ノリ軽っ」
「ま、一途さの勝利というやつね」
優しい目をした麻理子と奏が、そよそよと吹く風を浴びて微笑みあった。
「ところでコイツ、黒咲くんと何かあったの? ずっと泣いてんじゃん」
ベソベソと泣く拓司。
「我ながら静夜が出来た息子で怖い。 ちょっと甘えベタだからお菓子でも買ってってあーげよって」
まったく興味を示さず、スマホに保存された我が子の写真を見てニヤニヤする麻理子。
「あ、お菓子なら一緒に作る?」
「やったー! あたしケーキ食べたい!」
なんだかんだで、二人は仲の良いままで、高校生の時よりもずっとたくましいのだった。
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