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私は電車に乗りながら黒咲くんとの最後の会話を思い出す。
***
卒業式の日、みんながそれぞれの反応を示しながら卒業証書の入った黒筒を握りしめていた。
友達と別れ、校門の前で私は黒咲くんと対峙する。
「なぁ、時森はノストラダムスの大予言って覚えてる?」
突然のワードに私は目を丸くし、ケラケラと笑う。
「あー、なんか小学生のときに話題になったやつだよね? 懐かしー!」
子どものときに何かと言えば笑ってその時を待っていた。
それが本当なのか、嘘なのかはどうでもよく、話題として何かと滅亡と冗談を発していた。
「みんな世界が終わるって言ってた」
「終わらなかったな。 ……終わってくれればよかったのに」
「え? 今なんて」
呟かれた言葉を聞き取れなかった。
黒咲くんは散り際の桜のように淡く微笑んだ。
「ううん、なんでもない」
頭をくしゃくしゃと撫でられ、私は唇を尖らせながらも内心胸を高鳴らせて上がってしまう口角を押さえつける。
くすぐったい。
でもまるで幸福感しか知らないかのような高揚に私は綻んでいた。
「ここを離れてもオレのこと、忘れないでくれよ?」
「忘れるわけないじゃん!」
(忘れるわけないよ。 ずっと好きだったんだから)
一瞬にして私は降下する。
片手に持っていた黒筒を握りしめた。
それから何気ない雑談をして、私は黒咲くんへと手を振り最後の別れをした。
私と黒咲くんの道は制服を着て通う学び舎を背に、右と左に分かれていく。
振り返ったときに見た黒咲くんの背中は、はじめて見た時よりもずいぶんと広くなり、春なのに寒さを感じた。
この先、二度と見ることはないとも知らず、私はその背が見えなくなるのを黙って見つめていた。
「さよなら、私の恋」
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