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電車に揺られて、私は里穂とのメッセージのやりとりを俯瞰的に見ていた。
(黒咲くん、自殺なんてどうして)
あまりに実感がなさすぎて、実はエイプリルフールでしたオチはないだろうか。
いや、時期も違って今は薄手のコートが必要なほどだ。
(都会と違って田舎だからとっくに結婚でもしてると思ってたけど、どうだったのかな)
じわっと、視界が歪んだ。
目頭が熱くて周りの人たちが横にゆらゆら揺れる。
(あ、どうしよう。 泣きそ……やだ、こんなところで)
手の甲で強めに瞼を擦る。
小さな粒が手の甲でラメがついたように光っていた。
息を整え、私はただなんとなく出入口の上に設置された液晶に目を向け、羅列される文字を読む。
『ふたご座流星群の予想極大時刻は本日14日22時頃を予定。日本で条件良く観察できる時間帯に当たっています』
かわいいポップな星のイラストが液晶に降っている。
思わず頬を緩め、笑ってしまった。
(そういえば黒咲くんって星好きだったな)
今では閉鎖された屋上に、当時は忍び込んで学校が閉まるギリギリまで星を眺めていた彼を思い出す。
都会に出てきてからというもの、私は星が魅せる幻想的な景色というものを見ていない。
ふと、現実から離れたいと思ってしまう。
誰にも訴えられない圧力と、特別大切な人がいない家と会社の往復の日々。
運良く休めても一人ベッドの上でスマートフォンを触るだけの口を開かない夜。
誰を思い浮かべることもなく、SNSでみる知らない人の身近な話。
それを語ることもなく、ただ暗闇の中で光るディスプレイを見る。
人工的なもの、冷たいだけのもの。
人生って、こんなに流れるだけだった?
心躍らず、傷さえも麻痺してわからない。
子どもの頃にこうなるだろうと想像していた大人にしては、あまりに退屈であまりにみじめだ。
仕事がなくなったらどこまで底は低くなるのだろう。
底辺ってどこにあるのかな。
よくわからない。
ただ、無性に私はあたたかさが恋しくなった。
私はそのまま電車で終着駅まで乗っていった。
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