第一話「First Love」

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降りた先は低い屋根の並ぶ住宅街で、少し歩けば山に繋がる郊外の未開発地域。 都会と自然の狭間にある人の少ない集落だった。 全く考えなしに来てしまったが、歩いてたどり着いた辺りを一望できる丘。 特別な夜だからか、意外と人いる。 さすがに黒パンプスの女ひとりはいなかったが、意外と無心で丘を登れるものだと驚いてしまった。 (体力ないくせにこういう時だけは歩ける謎) 空を見ると星が輝いており、チラチラと流れ星が見えていた。 (みんな流星群見に来てるんだなー。 でもやっぱり女一人で見に来てるのはちょっと恥ずかしいかも) 男性一人か、または大学生くらいの集団しかいない。 ポツンと立っているスーツジャケットを羽織った3センチヒールの独身女は私だけだ。 これが女の孤独というもの。慣れたものだ。 未来予想図は結婚して子ども二人、ローンで家を買って仲睦まじく……なんていう昭和の好景気みたいだったはず。 好景気を知ることのなかった世代の私にはそれこそおとぎ話で、美味しい味かを問いたくなるものだった。 (穴場でもないかなー?) あたたかさを求めたはずが冷えていく。 トホホと私は腰を曲げて草を踏み、その場から離れた。 「あ、こっちは人いない」 もう少し高いところへと登り、人目を避けるように歩いていくと小さな穴場スポットを発見する。 柵のない少し足場の悪い場所だが、そこから見えたものは世界を一変させるものだった。 下には住宅の明かり、上には星空、夜に駆けるは見飽きることのない光の競走。 (こんな満天の星空、こっち来て見るのはじめてだなぁ) スマートフォンを点滅させると、時間は見頃を迎えたことを表示していた。 「見に来てよかった」 これは酔いしれたくなる光景だ。 誰にも縛られない、溶け込みそうになる幻想的なものだった。 「黒咲くんも、見たかっただろうな」 大人が子どもに言う亡くなった人の例え。 黒咲くんも星になったんだ。 もう、いない。 実感なんてないくせに、死を想うと涙が溢れた。 ボヤけた視界をそのままに私は流星群を見る。 小さい光がどんどん大きくなって、輪郭がはっきりと見えるようになっていった。 「わ、すごい! こんな近くに見えるものなんだ……」 だが夢から覚めるのも早いのが現実。 身に迫る危険にロマンティックなことを考えられるほど、思春期な脳は残っていなかった。 「……え? 近……」 真っ白な閃光が私を飲み込んだ。 「な、なんだったの?」 瞼を閉じても眩しかったそれが消えたのを感じると、ゆっくりと目を開く。 そこは流星群の空は同じでも、柵があり下に見える光景は全く異なるものだった。 それでも知っているセピア色になっていた記憶の景色。 「え、ここって……」 「時森?」 「えっ!?」 急に背後から呼ばれて心臓が跳ねる。 声を聞いただけで、まるで全身から涙が溢れそうな熱い情が込み上げる。 私は髪を乱す勢いで振り返った。 カーディガンを羽織り、ネクタイをゆるめた制服姿。 まだあどけなさの残る端正な顔に、やや長めの前髪をした夜に溶ける黒い男の子がそこにいた。 「なんでお前ここにいんの?」 振り返るとそこには黒咲くんがいた。
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