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第二話「流星」
星降る夜の屋上。
群青色に溶け込みそうな繊細さのある男の子が望遠鏡の前に立っていた。
(どういうこと? 黒咲くんは死んだって……というか制服?)
「……幽霊? え、そんなことある?」
「おーい、勝手に殺さないでくれよ」
「ぴゃあっ!?」
いつの間にか目の前に立たれており、闇夜に浮かぶ冷えた手が頬に触れる。
池を泳ぐ鯉のように飛び跳ねた私に黒咲くんは口角をあげ、クスクスと無邪気に笑い出す。
そのことに途端に恥ずかしさが込み上げた。
きっと池から顔を出したのは鮮やかな鯉だっただろう。
「ぴゃあって……ははっ、お前しか言わないよなぁ」
「ちょっとやめてよ!」
「ごめんごめん」
キラキラと流星群に紛れてしまいそうな輝き目が奪われる。
自然と口角があがり、胸がキュっと音を鳴らした。
(黒咲くんだぁ。 そっか、これ夢見てるんだ)
「私、卒業してからもずーっと拗らせて好きだったからなぁ」
「は?」
「ん?」
「え?」
「……え」
沈黙。
途端に口から出た言葉に赤面した。
「あ、ちが、違って! これはその、星が好きってことで!」
(一体私は何を言ってるんだ!?)
「あ……星ね」
腑に落ちないながらも笑って流してくれる。
いや、気づいてないだろう。
何故なら私は当時、黒咲くんに好意を見せていないのだから。
誤魔化す以前に、私たちの間に甘ったるい空気は流れなかったのだから恋愛への発想には至らない。
私は達観した拗らせにより、心の中で腰に手を当てて高らかに笑っていた。
「今日はふたご座流星群が見えるからなー。 屋上とか絶景と思って侵入したわけだが、時森も侵入してくるとはやるなぁ」
「わ、私はそういうわけじゃ……」
(あれ? 私っていま黒咲くんにはどう見えてるのかな?)
実際の私はこの場所に現れていない。
リアルな夢なのか。
ここにいる黒咲くんは幻で、私を見るにあたり輪郭というものはないのかもしれない。
私にとっての都合のいい形だ。
長年の拗らせにより美化された爽やかな男の子が空を見上げていた。
「やっぱり星はいいな。 流星群なんてロマンがあるね」
「そうだね、久しぶりに天然の星空を見たよ」
その言葉に黒咲くんは首を傾げる。
「星は毎日見えるだろ。 流星群だから特別なんだよ」
「あは、そうだね」
都会では星はみえない。
高層ビルと人工的な灯りで空はいつも青混じりのグレー。
都心部から離れても空に見えるのはポツポツとした小さな星と、流れ星に見せかけた飛行機の光だけだ。
プラネタリウムなんてものは星に焦がれながらも都会を離れられない人間には最高の娯楽だろう。
それくらい満天の星空なのに身に染みる違いは大きかった。
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