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プロローグ
私が覚えているお母さんは、病院の入退院をくり返しながら、いつも青白い顔をしていた。
家にいても、いつも布団の中から出て来なくて、私はお母さんの笑顔をあまり見たことが無い。
「沙羅。こっちに来て」
その日、ベッドの上に座ったお母さんが珍しくにっこり笑って私を手招きした。
「お母さん、今日は具合がいいの?」
いつもお母さんの部屋に入っても、具合が悪いと追い出されていた。すでに小学校二年生になっていた私は、そんなお母さんの身体の調子をいつも気にしていたように思う。
「ええ、今日はとても気分がいいの。沙羅、クローゼットの中に引き出しがあるでしょう? 左側の引き出しを開けてみて」
私はクローゼットを開けると、言われた通りに引き出しを開けた。
「そこに白い箱があるでしょう?」
「これ?」
色褪せた小さな紙の箱を取り出して、お母さんの手の上に置いた。
「これはね、八神家に代々伝わってきた物なの」
「八神って、お母さんがお父さんと結婚する前の苗字だよね?」
「そう。これは龍神様なの」
お母さんは箱のふたを開けて、手のひらに乗る大きさの龍の像を見せた。古そうだけど、全身金色に輝く龍はとてもキレイ!
龍の目はキラキラと光って見えて、手に持っている玉はキレイな水色だ。
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