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佐味田川知世は挨拶が好きだ。大人はチョロいと思う。それに気づいたのは母親に産み落とされたときだった。母親も産婦人科医も看護師も、いかにもチョロそうなアホづらだった。私を抱いた、アホな看護師が手を滑らせたので私は身体を少し捻り、一回転半して着地した。私は丁寧にお辞儀をすると、女子アナもビックリのあざといスマイルで「お疲れ様ですっ」と言って、分娩室を後にした。小学校の先生も言っていた。挨拶は大事なんだ。
「好きですっ、付き合って下さい」
ちょうど101人目に告白してきた年下のイケメンを「お疲れ様っ。私、役に立たない無能は大嫌い」とハリウッド映画のガンマンの去り際よりもあっけなく振ったかと思えば、貫禄あるおじさまの腕にすっぽんのようにねっとりと腕を絡め、愛を求めるふりをする。まるで川の流れのように留まることを知らず、絶えず低い方に落ちていく。理想を語る大人ほど容易く欲に流れる。世の中にいる人は2種類。善人のふりをした悪人と、悪人らしい悪人だ。クズにはクズの流儀があって、超えてはならない壁がある。子供の前で最近の若者はけしからんというこのエロ親父ほど滑稽なものはない。
「おじさま、私のこと、すき?」
挨拶っ。挨拶っ。
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