お魚とネコ(童話)

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お魚とネコ(童話)

 お魚は、金魚ばちの中でうまれました。  お魚には、何にもわかりませんでした。  ここが、自分の生まれ故郷でないことも、おとうさん、おかあさんお魚って、だれなのかも。 「やあ、うまれてる。かっわいい」  お魚がはじめて聞いた言葉は、その家の男の子の声でした。お魚が、ブクブク装置のところで、モゴモゴ体を洗っていると、男の子が、お魚に話しかけてきたのです。 「こんにちは、お魚さん。ボクは、キミが生まれるのを、ずっと待っていたんだよ。元気に育っておくれね」  男の子は、せいいっぱい金魚ばちに顔をくっつけると、にっこりとお魚に笑いかけました。  お魚は、男の子が好きでした。  男の子の姿が見えないと、とても淋しく思いました。えさをもらうときは、パチャパチャと、金魚ばちじゅうをはねまわりました。水をとりかえてもらったあとは、思いっきり元気に泳いでみせました。  男の子、手をたたいて喜ぶんですよ。  世界中の、いろんな国の話をしてくれたのも、男の子でした。  お魚は夢いっぱいでした。  お魚は幸せでした。    ある日、お魚は、金魚ばちのまわりに、ヘンな生き物がうろついているのに気がつきました。その生き物は、まっ白くふわふわした毛と、ブルーの目をもっていました。舌をペロペロさせながら、ときどき、残念そうに、ミャーとなくこともあります。  お魚は、男の子に、その生き物のことを、たずねてみました。 「あの、白くて、ふわふわしたものは、なに? わたしのほうをみて、ミャーとなくのですよ」  男の子は、こまった顔をして答えてくれました。 「あれは、ボクのネコでミャーロ。キミの部屋に入ってはいけないって、いっておいたのに……。しかっておいてあげるね」  すると、お魚は、首を横にふりました。 「ううん、ミャーロのこと、しからないで。だって、ミャーロは、わたしのおともだちですもの。わたしの、ふたりめのおともだち。わたし、ミャーロとおはなししたい」  お魚の言葉におどろいたのは、ネコのミャーロのほうでした。 (お魚と、お話をするのだって? ボクは、お魚をたべたいのに。おいしそうな、お魚なのに……)  いやがるミャーロを、男の子は、金魚ばちのお魚と面と向かわせました。ミャーロの顔は、プクプクとゆがんで見えます。 「こんにちわ。わたしのおともだちになってくれる?」  かわいいお魚の声でした。とってもすてきな、お魚の笑顔でした。 (こんなにかわいいお魚をたべようと思っていたなんて、ボクはどうかしていたぞ!)  ミャーロは、お魚のおともだちになることを、すぐにきめてしまいました。
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