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第5話 果実のジュースはおいしいです
外見はすっかり綺麗になった涼子は、庭にあるテラス席にアシュリーに案内されていた。
この屋敷の主人と奥様から話があるという。
テラス席からは、庭の綺麗なバラが見える。よく見ると、元いた世界のバラとは少し花びらやトゲが違うようだが、これも異世界らしくて涼子はちょっとワクワクしてきた。
「涼子、これは果実のジュースよ。この国でとれる木苺やベリー類で作った特別なジュースよ。ご主人と奥様が来るまで飲んでみてね」
アシュリーはテラス席のテーブルにジュースを置くと去っていった。丸みを帯びたグラスには、紫色のジュースが入っていた。
そういえば兄・太一がよく観ていた異世界もののアニメでは、ご飯が不味そうな描写が多かった。太一によると異世界ものではご飯が不味いというのが、定番テンプレ描写らしい。そこで転生してきた元日本人が、和食を作って無双したりする話は面白かった記憶がある。
このジュースは美味しいのか不味いのか。色はブドウっぽいが、匂いはかすかに柑橘系っぽい。
「うそ、このジュースは超おいしい!」
おそるおそるジュースを口に含んだが、爽やかな風味が広がり、とても美味しい。比較的気温は高いこの土地で、より美味しく感じてしまった。元いた世界のベリー類のジュースに一番味は近いが、後味はスッキリだ。甘すぎないのが舌に心地いい。このジュースの色も蒼い空にマッチしているように見えた。
見た感じでは海はないようだが、海辺で飲みたいジュースだった。爽やかで微かに甘いジュースに、夢見心地になってくる。
異世界のご飯は不味いという噂だったが、ジュースはこれだけ美味しいのなら、問題無い気がした。
気温は暑いのがちょっと大変そうだが、それ以外は全く問題は無さそうだった。ご飯も問題無さそうだし、異世界というよりリゾート地に来たような気分だった。この屋敷が金持ちらしく、広くて豪華のも涼子を夢見心地にさせていた。
「ハイ! 涼子!」
そこにご主人と奥様がやってきた。二人ともアシュリーと同様に濃い顔立ちで、西洋風のルックスだった。
ご主人は50歳ぐらいで品の良さそうなタイプだった。学校の先生にいそうなタイプだが、白シャツにスラックというラフな格好で、怖い感じは全くしない。垂れた目尻も優しそうでホッとする。
一方、奥様は金髪碧眼の派手目なタイプだった。ご主人よりだいぶ若いようだが、モデルにもいそうな整った顔立ちで、ついつい観てしまう。目の保養というのは、こういう事だろう。少し胸元が開いたワンピースを着ていたが、嫌らしい感じは全くしなかった。涼子は自分の胸を見比べてしまうほど。ちなみに涼子は筋肉は美しいが、胸はAカップである。胸を大きくするトレーニングも涙ながらにやっていた。
「涼子、アシュリーから事情を聞いたよ。本当に辛いね」
「そうよ、私も胸が痛いわ。ずっとこの家にいてちょうだい。私達は子供もいないから、部屋も余ってるのよ」
ご主人さまにも奥様にも優しくされ、涼子の胸はいっぱいになってきた。
「ま、あなたと同じ日本人の血を引く者もこの村にいるから、何か知ってるかもしれない。あとで、アシュリーに案内して貰うといいわ」
しかも奥様には励まされて貰い、涼子は今にも泣きそうになってきた。
「もし帰れなかったら、うちの仕事も手伝ってもらおうかな」
「ご主人さま、仕事ってなんですか? そもそもこの世界にも仕事があるんですか?」
涼子が少し前のめりでご主人に聞いていた。こに世界も基本的に資本主義で、お金と労働も必要不可欠とう事だった。現代では化学技術も進歩し、魔術は廃れているが、この国ではドラゴンライト教という宗教が根付き、聖女が身体の治療をするという。この国の医者はあまり頼りにされず、聖女が病気の治療している。これが一番カルチャーショックだったが、聖女に聞けば何かわかるかもしれない。
「まあ、うちの村にいるレベッカ様はね……」
奥様はなぜか苦い表情を見せた。
「何か問題でも?」
「まあ、少し癖のある聖女様って事かな」
旦那様も苦笑していたが、涼子は聖女には会ったことはない。会った事の無い人についてあてこれ言うのは、失礼な気がした。テレビを見て芸能人の悪口などを言うと、兄によく注意をされていた。両親は亡くなっているわけだが、躾はちゃんとされている自負はあった。
「ところで、ご主人さまってどんなお仕事をしているんですか?」
そう聞いた時、ちょうどアシュリーがテラス席にやってきた。ご主人の勧めもあり、このクリケット村をアシュリーに案内して貰う事になった。まず日本人の血を引く村人の家に行こうという話だった。
結局、ご主人はどんな仕事をしているか聞きそびれてしまった。
しかし、どうもこの異世界はリゾート地みたいで、帰りたい気分にもなっていなかった。ご主人も奥様もアシュリーも、他のメイドも優しく、このボード家が金持ちの家というのも、涼子の理性を狂わせているようだった。
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