第7話 野良男と聖女

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第7話 野良男と聖女

 涼子とアシュリーの目の前に現れたクマのようなものは、よく見ると人だった。全身ボロボロに服を着ているから、クマに見えてしまったようだった。20過ぎぐらいの若い男だったが、前髪は伸び、無精髭が生えていた。ホームレスというほどではないが、それに準じるような不潔感だ。よくいえばワイルド系男子だ。悪く言えば野良男という雰囲気だ。かなり体格はよく、筋肉のつき方も悪くない。身体を鍛えている事は伝わってきて、涼子はちょっと親近感を持ってしまったが。 「ちょっと、あんた。ジョンじゃない」  アシュリーとその男は知り合いのようだった。ジョンという名前らしい。よく見るとジョンは、虫籠を持っていた。子供のように昆虫採取をしているのだろうか。西洋風の濃い顔立ちという事もあり、この男の方がよっぽど「ゴリラ」と言いたくなる感じではあったが。 「そうさ。お前ら何やってんだ? っていうか見ない顔だな。アランにもちょっと似た顔つきだ」  ジョンは背を屈めて涼子の顔をじろじろとみた。あまりにも不躾で、イライラとしてくるが、一応自己紹介をしておいた。 「ふーん。別世界から来たのか。お前はいい筋肉ついてるんじゃないか?」 「これでも毎日走ってますからね!」  なぜか涼子とジョンは睨み合い、マウントを取り合っていた。その二人の姿はどこからどう見ても「ゴリラ」そのものだった。側から見ていたアシュリーは大笑いしていた。 「ところでジョン、何でまだ森で生活なんてやってるの? ジョンのお父さんもお母さんも心配してたよ」  アシュリーはしばらく笑った後、ちょっと心配そうだった。 「いや、俺はこの生活が肌に合っててな。まあ、寝起きはアランの家でしてるし自由で快適なのさ」  ジョンはドヤ顔をしていた。 「なんか変わってるね。食べ物はどうしてるの?」 「うん? 俺は●●●●と●●●●がお気に入りだし、困んねぇよ」  また風がざわめき、ジョンが言った言葉が聞き取れなかった。 「なんて言ったの?」 「まあまあ、涼子良いじゃない。村の中心部に行ってみない?」 「え、でも」 「ここに居ても仕方がないって」  アシュリーに半ば無理矢理腕を引っ張られ、村の中心部に行く事になった。サクサクと森の中を歩いて行って出ると、村の中心部があるようだ。さっき入った森の入り口とは反対方向のようだった。  村とは言えないほど中心部は栄えているようだった。大きな公園もあり、商店街のような場所も見えた。確かに豪華なリゾート地と思うとしょぼいが、異世界と思えばまずまず発展している土地に思えた。ジョンと違い、村人たちはきちんと服を着て清潔感もあるようだった。中にはスーツを着ているものもいた。ジョンは村の中でもレアケースと言っていいだろう。  とりあえずアシュリーと二人で公園に向かった。公園は意外と木々や草花もなく、きちんと整備されていた。ここだけ見たらとても村という感じはしなかった。  公園の中央には大きな噴水と女性の形の像も飾ってあった。噴水はともかく、この像は気になった。 「アシュリー、この像誰?」  像は、若い女性のものだったが、細いドラゴンのようなものが身体に巻きつき少し不気味な雰囲気があった。 「ああ、この像はドラゴンライト教の聖女様ね。この国で拝まれてるのよ」 「へー」  しかしこの像を見る限り、聖女は幼児体型でちっとも美しい筋肉がついていない。顔は綺麗だが、スタイルは40点といったところ。この聖女が実在するなら、筋トレと食事指導をしたくなってしまった。涼子からすると、これが崇められているのが信じがたい。 「まあ、私は聖女なんて信じていないけどね。広場の方に行ってみる? この村の聖女・レベッカ様がパフォーマンスやってるかも?」 「パフォーマンス? 聖女ってそんな事までするの?」  文化や文明はの元いた世界と大差ないが、どうも違う所もあるようだった。特に宗教については、涼子の想像の範囲外の事が多いようだ。 「まあ、とりあえず広場に行ってみましょう」  アシュリーに腕を掴まれ、公園の広場の方に向かう。すでに人だかりができていて、何かパフォーマンスのような事をやっているのは確かのようだった。  人だかりでよく見えないが、中央には一人の女性がいて注目を集めていた。年齢不詳の女性だった。外見は25歳ぐらいだが、ほうれい線だけ妙に濃かった。そこだけ見たら40歳ぐらいにも見える。白いワンピースを着て、豪華な首飾りや髪飾りをつけていた。明らかに普通の村娘ではない。西洋風の顔立ちだったが、炎のような色の髪の毛も印象的だった。体型は30点といったところだ。おそらく運動不足で二の腕や下っ腹がダルダルだった。姿勢も悪いので単なる幼児体型より酷い身体つきだった。やはり、生活習慣は見た目に出てしまう。この女性は甘いものや脂っこい料理が好きそうだった。一方、さっきのジョンは肉やタンパク質の多いものばかり食べていそうだった。 「アシュリー、もしかしてこの女性が聖女?」 「そうよ。聖女レベッカ様ね」 「へー」  みんなから注目を集めているようだが、涼子はレベッカを見ても特に憧れは抱けなかった。 「オーミクロン♪ クリケット♪ あぁ、クリケット♪」  しかもレベッカは、変な踊りや歌を歌っている。村人たちは拍手し、一緒に盛り上がっていたが、涼子の頭の中には「カルト」という文字が浮かぶ。アシュリーもレベッカには冷めた視線を向けれいたので、余計に涼子の思考も覚めてくる。異世界らしいといえば、そうなのだが。   レベッカは、具合の悪そうな村人を手をかざして治療しはじめていた。すると、一瞬で村人は元気になり、村人たちは聖女を褒め称えていた。 「そんな事ってあるの?」  元の世界では医療が発達していた。手をかざしただけで具合が治るなんて信じらない。でも、村人たちの盛り上がりやレベッカのドヤ顔を見ていると、騙される気もちょっとわかってしまう。 「くだらなー。行こう、涼子」  アシュリーは終始興醒めしていて、涼子の腕を引っ張って広場を後にした。 「どこ行くの? アシュリー」 「商店街のカフェに行きましょう。お腹減ったわよ」  確かに涼子はお腹が減っていた。病気を治せる聖女がいるのは異世界らしいが、「食べ物は美味しいと良いなぁ」と涼子は呑気に考えていた。
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