case1 公妃様は転生ヒロイン?

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「最後のゴメー(略)ーンのコロラトゥーラは、世紀の絶唱とも言うべきあまりに素晴らしい……というより凄まじいアリアで、聴いていた客の何人かはその場で昏倒しキャンディス嬢と運命を共にしたそうです。また、その超絶技巧に驚嘆し採譜を試みた宮廷音楽家も謎の死を遂げ、国王により『悪魔の音楽』とされたそのアリアは歌うことを禁じられました」  久遠の時を重ねた帝都からはほど遠く――かの時代の旧王家の血を引く名門、サルヴァノーヴァ公の居城。  東方趣味の公妃、ノリカの私室はエキゾティックなインテリアで統一されている。  数百年前の旧王朝時代のそんな伝説を語って聞かせながら私、リリア・ステラは白檀のサイドテーブルの上に自ら東方で仕入れた装飾品や化粧品などを並べ揃えてみせた。 「悪女なんてゴメンだけど、そんなに凄い歌だったのなら一度、聴いてみたいわ」 「悪役令嬢、ですわ。奥様」  歳は重ねても少女の頃と変わらない公妃の初々しい美しさと無邪気さに、私は微笑んだ。
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