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「サルヴァノーヴァ公殿下の善政で領内が平和なのは、公妃様の内縁の功あってのことですわ」
「そう言ってもらえると嬉しいのだけど……公子や公女も大きくなって手がかからなくなってしまったからかしら……最近何となく物足りなさを感じてしまうのよね。この世界、やたらと結婚年齢が早いから、私だってまだギリ二〇代なのよ」
ノリカは短くため息をついた。
「平穏が一番、とはわかってるの……あんな殺伐とした日々が何だか懐かしいなんて……」
私自身もさすがに少し大人になったので、今では自分の好き嫌いだけでそこまで動くようなことはもうしないと思う。甘酸っぱい思い出を振り返り、眩しく感じてしまう気持ちは私も同じだ。
「時は思い出を美しく変えるといいますからね。奥様がまだお若い証拠ですわ。何か新しい事でも始められては?」
「それもそうね……あら、もうこんな時間。私の可愛いお子達が学校から帰ってくる時間よ」
「では私はそろそろお暇を……」
「あら駄目よ。リリアのお土産話を楽しみにしてたのに、まだ何も聞いてないわ。どう、一緒にお茶でも」
ノリカは、平民出身でありながら男女問わず上流社会の人間を次々と惹きつけてやまなかった伝説の一撃必殺技「天真爛漫な人懐こい笑み」をこれでもかと輝かせた。
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