あと一年の私と曜日の彼ら

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 愛奈はあと1年しか生きられないと占い師に言われる。気楽な気持ちで占いをしたのに、そんな事実をつきつけられて唖然とする。しかし、不思議な占い師が渡したのは水晶がたくさん入っている袋だった。手のひらに握ることができる野球ボールのような透明水晶。  7つだけ色のついた半透明の水晶が入っていた。そこには日月火水木金土と書いてある。日は赤色。月は黄色、火はオレンジ色、水は水色、木は緑色。金は金色、土は茶色だ。水晶はビー玉の大きい感じのイメージ。 「この水晶に書かれた7つの曜日がいます。あなたがお腹が空いたとき、擬人化します。彼らはあなたを守ってくれます」  占い師は言う。 「曜日が擬人化?」 「たとえば、日と月が合体すれば明になります。それを渡すと相手は明るい気持ちになります。そうすればあなたにはいいことポイントが増えます。いいことをすればするほどポイントが増えて寿命が延びるのです」 「具体的にはどれくらい延びるのですか?」 「水晶計が入っています。水銀の温度計のようなものなのだけれど、そのポイントが増えると自分の命が延びるという設定になっています」 「減ることはあるのですか?」 「基本的にはあまりありませんが、あなたが水晶を悪用したり、相手を不幸にしてしまうとポイントが下がるかもしれません」 「1日何回使えるのですか?」 「1日何回でも使えますよ。あと、何も書いていない透明な水晶は、あなたがマジックペンで漢字を書くのです。そして、曜日の水晶と合体してください。そうすると一つの漢字になるのです。2つ使って熟語を作ることも可能です。困っている人を見つけたら、足りないものを補う漢字を考えて与えるのです」  愛奈は自分の部屋に帰る。半信半疑の愛奈。おなかがすいたなぁと思うと、水晶の袋からは、同じくらいの年齢のイケメン男子が7人も出てくる。言葉が出ない。 「君の寿命はあと1年。事故か何かで死んでしまう。それならば俺たちが手伝おう」  赤い髪の日が言う。正義感の強いヒーローのような感じがする。 「まずは俺を使ってみない?」  髪色も服も緑色の木が優しく囁く。 「どういうこと?」 「俺は木だ。つまり、栄という漢字に変わることができる。君は透明な水晶に栄の上の部分を書いてよ」 「愛奈がよく行く書店が赤字経営で閉店しようかという話があるんだろ。俺は情報通だからな」 水がクールな顔で全てを知っているかのように見つめてくる。 少しばかりどきりとする。 「噂だけどね」  その噂は知っていた。いずれ店を閉めるだろうという話だ。今の時代、電子書籍とかネット通販がたくさんあって、老舗の昔ながらの小規模な書店は繁盛していない。幼い頃から通っていた書店には残っていてほしい。名残惜しい気持ちになる。多分、近々本当になくなるだろう。 「書店の店主に渡してこい」  金のオーラの金が命令口調で囁く。 「でも、渡しちゃったら木はいなくなっちゃうの?」 「大丈夫。透明な水晶に魂を入れているだけだから。俺らはいつもおまえの傍にいるよ」  アイドルのようなかっこいい男子に言われる甘い言葉。急なことで戸惑う。こんな幸せでドキドキすることが起きるなんて、人生わからないものだ。  書店の店主のおばあちゃんに透明な水晶を渡す。そこには愛奈が書いた字と木が合体した栄が記されていた。 すると――その瞬間水晶が光を放ち弾けた。おばあちゃんは驚き不思議な顔をする。老眼鏡で手元を確認するが、水晶はなくなってしまった。 「何の手品かい?」 「これは、おまじないです。このお店にたくさんお客さんが来るようにって」  早速、買いたいと思っていた小説を購入する。狭い店内だが、児童書の品ぞろえは割といい。近所の子供たちは月刊誌や週刊誌を購入することもあり、割と漫画雑誌の種類も多い。 「今はコンビニやネットの時代だからね」  店主はためいきをつく。  すると――予期せぬことに、お客さんが次々やってきた。 「ここにあった!! この人気漫画なかなか手に入らないんだよね。ネットの書き込みで全巻置いてあるって書いてあったから、来た甲斐あったよ」  大人買いというやつだ。全巻購入の20代くらいの男性。  次にやはり同じ人気漫画全巻を購入したいという女子大学生が来た。「小さな書店は穴場だな」と言ってすぐに購入。  さらに、探していた絵本がなかなかなくて諦めていたけれど、ここにあると書き込みで見つけたという母子。  次から次にやってくる。初めて見る顔ばかりだ。 「情報社会には拡散だよね」  擬人化している木が優し気に囁く。 「ほら、寿命のポイント上がったな」  日が笑顔で見せてくれた。50ポイントはあがったようだ。 「やった!!」  店主のおばあちゃんの笑顔は久々だ。人のためになにかをやるって気持ちがいい。
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