寿命を吸い取るサイン ライフペーパー

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 中学生の少年、引地舞人(ひきちまいと)の元に、AIが組み込まれたライフペーパーが送られてくる。都市伝説では聞いた事があったが、そんなことが現実に自分に起こるなんて思わなかった。本当に4色の紙がある。それも、何十枚と封書に入っている。自分にデメリットはないと聞く。だったら、試してみよう。殺人じゃない。ほんの少し寿命をわけてもらうだけだ。寿命をわけるボランティアみたいなものだ。でも、1ヶ月命をくださいなんてダイレクトに言ったらおかしな人だと思うだろう。それに、少しでも寿命を縮めたい人なんているのだろうか。少しでも長生きしたいのが人の常だろう。悪人からならば命をもらってもかまわないかもしれない。でも、悪人と接点なんてないし、悪人にサインをもらうなんて容易ではない。 「ライフペーパーは、どんな病気でもどんな事故でも、必ず寿命を延ばしてくれる紙です。これは、きっとあなたにとっての神になるでしょう」  自殺したいと考えている人が世の中にいるはずだ。そういう人から少しだけでも命をわけてもらおう。早速、スマホで自殺志願者を探す。案外、思ったよりもいる。でも、この人たちは、構ってほしいだけで本当に死にたいのだろうか? そういった人は危ない思想なのかもしれない。会ったら、何か危害を加えられたら困る。知らない人に会うことはとても怖いことだ。しかし、若い人はきっと先が長い。だから、1年程度もらってもばれないだろう。  もしかしたら、ネットの向こうにいる人の返事は詐欺かもしれない。本当の年齢や性別を隠しているかもしれない。やはり、スマホ経由での出会いは怖いな。  そうだ、クラスでも幸の薄そうな女子がいたな。たしか、相坂美優(あいさかみゆ)だ。あいつは、気が弱そうだし、あいつに近づいて、サインさせよう。  さりげなく、放課後話しかけてみる。 「相坂さん」 「引地くん?」  前髪は長く、青白い肌は幽霊のようだな。声に覇気もない。 「君は、いつも元気ないよね」 「こういうキャラだから」 「引地くんが話しかけてくるなんて珍しいよね」 「実は、クラスの人から署名をもらっているんだ」  赤い紙を差し出す。よし、1年は長く生きられる。 「サインすればいいの?」 「よろしく」  なるべくさりげなく笑顔を作る。  何も疑問を持たずにサインをする。馬鹿だな。 「私、持病があって、あんまり体強くないんだ」  こいつ、病気だったのか? 1年の赤い紙を渡したことを少々後悔する。でも、病気と言っても若いんだし、すぐ死ぬわけじゃない。体が弱い人からでも強い人からでも、もらえる年数は決まっている。それに、即死は現時点ではしていない。だから、俺は悪くない。  風が吹く。前髪が上がった美優は意外ときれいな顔立ちだった。 「話しかけてくれてありがとう」 「そんなこと感謝するなんて、変だぞ」  あれ以来、俺は、彼女のことが気になって仕方なかった。  話してみると意外と良い人で、前髪を切ると、かわいい瞳が現れた。サインを求めなければ、彼女と話す機会もなかっただろう。でも、俺は奪ってしまった。彼女の1年を。後悔がつのる。  所有者を変更するやり方を調べるようになった。説明書きには書いていなかったので、ネットで調べてみた。すると、以前所有したことがあるという人物が怖くなって所有権を放棄したくなった話をブログに書いていた。次の所有者を決めて、その人に匿名で送る。それが、放棄の方法だということだ。だから、説明書きのみで送り主は書かれていなかったのか。納得してしまう。送られた人に放棄権はないとのことだ。もし、燃やしてしまったらどうなるのだろうか。それは、実証した人がいないからわからない。ただ、自分やサインをした人物に危害が及ぶと怖い。だから、俺は、美優に封書を匿名で送った。  友達のいない美優は案の定俺に相談のメッセージを送ってきた。 説明は一応書いたが、ひとつ嘘を書いた。それは、大切な友達の名前を赤いペーパーに書いてもらうようにと書いた。つまり、俺が受け取った1年分の寿命を彼女に返すという意味だ。彼女を騙したことを知られたくなかったし、知らずにそのまま彼女に寿命を返したかった。 「俺でよければ、書くよ」  その後、すぐに彼女と待ち合わせして、不可思議なペーパーを持ってきてもらう。 「最初に私がサインしたペーパー、寿命1年分でしょ」 「それは、その……」  なかなか言えないでいた。ばれていた。 「実は、ずっとあなたのことが好きだったの」 「赤いペーパーの話は都市伝説で聞いた事があったから、知っていたの」 「知っていたのに、書いてくれたのか?」 「あなたのためになるなら、私の命なんて削っても構わない」 「バカ言うな」 「あなたはいつも陽気で明るい人。ずっと憧れていた。あなたが赤いペーパーを持ってくる機会がなければ、こんな風な関係になれなかった。私、見た目暗いし」 「私ね、元々長生きできないの。だから、あなたの傍で死にたいと思って」 「1年くらいじゃ死なないよ。俺の命をわけるから」  とっさに赤いペーパーにサインする。 「死んじゃダメだ」  ぎゅっと彼女をだきしめる。 「俺の命をもっとわけてもいい。赤いペーパーに2回書けば、2年分わけられるだろう」 「私は今でも充分幸せ」 「俺はお前のためならば、知らない誰かの1カ月分の寿命をもらってやる」 「何を言っているの?」 「所有者は美優だ。サインの手伝いを俺がする分には問題ないはずだ。結果的に美優の寿命が延びる」  俺は、青のライフペーパーを持ってまずはクラスメイトに署名活動をはじめた。長い人生の1カ月くらいいいだろうと。 そして、自殺したい人、街を歩く人、誰でもいい。彼女に命をわけてくれと俺は行動する決意をする。
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