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4,てんぐ巣病
父が朋也を桜畑に誘ったのは、11月も終わりに近い休日のことだった。
朋也は夏の間塾通いなど受験勉強に明け暮れ、家族とまともに会話をしなかった。
父は夏の終わりに体調を崩して通院し、1ヶ月ほど山に行かなかった。これは父にとって画期的なことといえたが、回復はしたものの完治していない病気のせいもあるのか雅也は沈みがちで、その日もどんよりした薄寒い天気を反映したような顔つきをしていた。
こんな日に桜畑へ行くって、なんのためだろう。僕がずっと桜畑に行っていないから?
と、朋也はあれこれ憶測した。
自分一人を連れて行くということに、何か特別な事情がありそうだった。
彼は受験のことで頭がいっぱいで、桜に意識が向く余裕がなかった。
父もそのことを承知しているのか、誘いは命令のような上からのものではなく、懇願に近かった。
そんな父の様子から、朋也は桜に何かあったのかと不吉な予感に捉われた。
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