0人が本棚に入れています
本棚に追加
桜畑に到着すると、葉を落とした20本の桜の木が、悄然とした姿で立っていた。
落葉した木が物悲しいのは普通のことだが、朋也は久々に見る桜の木に、ただならぬ異変を感じた。
新緑の頃のあふれかえる生気は影を潜め、廃屋のように無と死の気配が漂っていた。
一体、どうしたんだ!?
立ち尽くす朋也の横に父が並び、非情な宣告をするような調子で言った。
「一目見てわかるだろう。桜の木は、もう死の病に侵されているんだ。あそこの枝を見てごらん」
父が指さす方を見ると、力ない枝の途中に瘤ができていて、そこから細い枝がホウキのように何本も発生して巣のようになっていた。
「てんぐ巣病っていってな、植物がかかる病気の中でも、桜、特にソメイヨシノがかかりやすいんだ。去年の花見の時にも小枝の密生が何か所かあった。そこには小さい葉が出て、花は咲かない。
病になった枝を切るしか方法がないんだ。
落葉した後剪定したが、それでも今年の春にはてんぐ巣病の枝が増えた。しかも胞子で伝染するので、すべての木がやられた。
私が病気で行けなかった間に桜の病は進行し、木全体が枯れかけている」
桜の木の幹には、洞ができキノコが生えていた。質の悪い異物に取りつかれたそれは、明らかに末期の状態だった。
てんぐ巣病のことは、朋也も以前聞いたことがあった。ソメイヨシノの最大の敵ともいえる病気だが、その奇妙な名前が印象深かった。
細い枝が密生して鳥の巣のようになるのだが、それがなぜてんぐの巣なのか。そもそもてんぐは巣を作るのかという疑問がわいた。
最初のコメントを投稿しよう!