栄養素を好きになってもいいですか?

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ニキビや肌荒れに悩む中学生女子荒井美子(あらいみこ)の夢の中にイケメンビタミンが現れる。 ビタミンも種類が多いのだが、ニキビ、口内炎、肌荒れと言えば、ビタミンB2。ビタミンB2が夢の中に現れ、美子は夢の中で驚く。自分が理想としている顔立ちそのものの美男子が現れたからだ。 「俺のことはビーツーって呼んでよ。種族はビタミン。よろしくな」 手を差し出す。握手をする。すると、そのまま知らない空間へ引きこまれる。空間の色は虹色で現実ではないというイメージだ。でも、これは夢だからと割り切る。どうせ現実世界にはいないイケメン君が傍にいる。こんなに心地いいものはそうあるものではない。 「おまえ、肌荒れやニキビに悩んでるんだろ」 「そうなんだよね」 「おまえには、俺が足りていないのかもしれねーな」  ぐっと顔を近づけて言われると、胸がきゅんとする。ビタミンだろうがなんだろうが、見た目は若い男子だ。そんな真面目な顔で足りないなんて言われたら――補給したくなっちゃうじゃない。 「のりや納豆や豚肉に俺は存在している。まぁ、手ごろなのはビタミン剤だったりするんだろうけれど、まだまだお前は中学生。つまり、発達途中だ。なるべく食物から俺を摂取しろ」  命令口調で俺を摂取しろと言われると、胸が高鳴る。こんなにきゅんきゅんしているのに、本当に夢なのかな。あなたを食べろと言っているの? ドキドキが止まらない。クラスメイトにこんな男子いない。というか、今まで現実世界で会ったこともないよ。 「あとは、俺のダチを紹介するぞ。B6だ」 「ちゅーっす。ビタミンB6っす。ビーロクって呼んでね」 ビーツーよりもなんだか軽い性格のチャラそうなタイプだ。見た目も金髪でピアスがたくさんついている。髪はおしゃれに整えられている。ビーツーは黒髪の正統派イケメンだから対照的なイメージだ。 「肌荒れには俺の相棒、ビーロクが必須なんだよ」  言い方が相変わらず俺様なビーツー。そして、終始笑顔のビタミンビーロク。 「君の肌を守るのは俺の役目。ずっと守るからさ」  こういう台詞を簡単に言うビーロクはなんだか遊びなれていそうな印象。 「いわし、豚肉、バナナなんかに俺がいるから、俺のこと、摂取しちゃいなよ」  どんだけ摂取してほしいんだろうと、こちらが赤面する。 「ビタミンCです。よろしくおねがいします」  イケメンボイスが背後からする。スーツに身を包んだ礼儀正しいお兄様が登場。こちらもかっこいい。 「シー、って呼んでください。肌荒れ、しみ予防にはビタミンCがいいんです。ニキビ跡を消すメラニンの抑制作用やコラーゲンを生成して老化を予防しています。つまりあなたの味方です。ここにいる種族ビタミンは体内の見えないヒーローです。だから、いつでもあなた様をお守りします」 「こいつは、緑黄色野菜やいちごやみかんなんかにいるからさ。いつでも摂取してくれよな。摂り過ぎても、俺たちビタミンは水溶性だから、尿によって体外に排出されちまう。過剰に摂っても意味がねーと言うことだ」 ビーツーは意外と説明が丁寧で面倒見がいい。  こんなにイケメンに囲まれたら私、どうしたらいいのだろう。誰を選べばいいんだろう。そんな選択肢を迫られていないのに勝手に悩む。みんなかっこいいヒーローだ。私の見方なんだ。心が温かくなる。  一通り、彼らの体内での活躍を紹介してもらう。見たこともない世界だ。  やっぱり、ビーツーが一番好きかな。そんな感情が芽生える。 「んじゃ、俺、結合して来るから」 「結合って?」  合わさるってことだよね? どういうこと? 「B2はリン酸と結合することで、補酵素になるんだ。栄養素の分解、エネルギー代謝に欠かせない存在さ」 「ビーツー行こうか」  かわいい女子が現れる。 「私、リン酸。これから、彼と結合するの。じゃあね」  なすすべなく、立ち尽くす。  私のビーツーがぁああああ。 「じゃあ、俺も行くわ。じゃあ俺もアミノ酸と合成して来るね。まったねぇ」  無邪気に手を振る先には、アミノ酸らしき美人がいた。あの人と、ビーロクが……。唖然と立ち尽くす。 「ビタミンCはストレスから守るホルモンを作ることができるんです。だから、ストレスを感じたらシーのことを思い出してください」  やっぱり、残ってくれるのは礼儀正しいシーだけなのね。私の、シー。 「僕も子供を作ってきます」 「ええええ? 何それ」 「ちょっとからかってみました。あなたがさびしそうな顔をしているから。語弊があるかもしれませんが、僕はタンパク質であるコラーゲンを作る役目があるんです。あとはビタミンEと協力して細胞を保護しているんですよ。だから、さびしそうなあなたを置いていくのは心苦しいですが、あなたの素敵な皮膚のためには僕の仕事が必要なんですよ。ビーツーもビーロクも全てはあなたのためにやっていることなんです。そんな悲しい顔をしないでくださいね。いつもあなたの中にいますから」  シーが消える。みんなみんな私の前から消えちゃうんだ。涙が一粒流れる。  目が覚めた。もう朝だ。今のは夢だった? でも、とっても具体的で記憶から消えない夢だった。きっと私の肌を今日も守ってくれているんだよね。 「ありがとう。これからもよろしくね」  そう言うと、朝のスキンケアをするべく、洗面所に向かう。
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