竜の血族と竜族

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 ネリュに促され、目の前の平民の家らしき建物に入る。奥の扉から人族らしき男女一組が出て来た。  「ネリュ、お帰り。」  「ただいま。」  「そっちは?」  「友人のウェイだ。」  青年といえる年齢らしい男に話しかけられたネリュが答えた。どちらも赤い髪に茶色の眼をしている。  「俺はベレル。こっちは妹のメイ。よろしく。」  「ネリュの友人のウェイだ。よろしく。」  「ウェイ、よろしくね。ネリュ、彼女、まだ目を覚まさないわ。」  俺と挨拶を交わしたメイは直ぐにネリュへと顔を向けて言った。どうやら女性を看病しているらしい。  「そうか。ウェイ、向こうに例の誘拐事件の被害者の1人を保護しているんだ。彼女は運良くベレルとメイに助けられた。ベレルとは前から知り合いではあったから、俺に連絡をくれた。それから資金援助する代わりに2人に彼女が目を覚ますまで面倒を見てもらってる。俺は時々こうして様子を見に来てるんだ。だが、既にひと月経ってるんだが、目を覚ます気配すらない。」  「ネリュ、俺はただの知り合いになったつもりはないぞ?お前を俺のモノにすると前から言ってるだろ?」  「その話は後だ。今は保護した令嬢のことが優先なんだよ。ウェイ、ついてきて。」  ネリュに頷きながら考えた。なるほど。ベレルはネリュと関係を持ちたいわけか。ネリュは侯爵家の後継になっているから、同性のベレルを受け入れることは出来ないと考えているんだろうな。俺のように次男じゃないから余程のことがなければ、後継の変更はしてもらえない。  ネリュに続いて入った部屋にあるベッドに寝かされている令嬢を見て驚いた。そこに寝ていた令嬢を俺は見たことがあったから。  「―――ペネライカ嬢。」  「やっぱりな。」  「兄の婚約者候補の令嬢だ。」  ネリュはペネライカ嬢がひと月、目を覚まさないと言った。この先ペネライカ嬢が目を覚ますか分からない。どうすればいいんだ?  「そうか。」  「何故目を覚まさないのかはわかってないのか?」  「わからないままだな。医者を呼ぶにも誘拐されたはずの令嬢が生きていることを知られるにはリスクが大きい。意識が戻らないから余計にな。」  医者にも診せられないか。何か方法はないのか?兄の婚約者候補は今のところペネライカ嬢以上の令嬢が見つからない。妥協すれば損失が大きくなる事を覚悟しなければならないだろう。  「あの女性が目覚めれば、ネリュは俺を見るのか?」  「は?何でそうなる?それとこれとは話が別だ。」  「ふーん。あの女性の状態がわかって、目覚めさせることが出来る心当たりはあるんだが。必要ないなら俺は知らない。」  ペネライカ嬢を目覚めさせることが可能?そう言ったのか?ただ、条件はネリュがベレルの恋人になる事?いや、おそらくはベレルはネリュを伴侶にと望んでいる。俺にはそう思える。きっとネリュもベレルを意識している。でも、後継の事があるから受け入れられないんだ。  羨ましいよ。俺は話すことも出来ない。きっと俺はレクスの記憶にも残らない。同級生とも認識されないまま学園を卒業してしまう。諦めることが出来ればどんなにいいか。  「目覚めさせる方法は俺が見つけるからいい。」  「後悔するなよ?」  「するわけない。」  お互いに惹かれ合っているのに、貴族というのは枷にもなるってことか。俺は、レクス以外は考えられないからな。卒業したら世界を旅するのも良いかもしれない。それまでにペネライカ嬢を目覚めさせる方法を探さないとな。  「父と兄にはペネライカ嬢が保護されて意識がない事を伝えてもいいか?狙われているから会わせることは出来ないとも言っておく。」  「そうだな。証人にもなるが、婚約者候補になってたなら意識不明のまま保護していることだけは伝えてもいいか。」  「ありがとな。」  この日は少しだけ家に留まって、ネリュの話も聞いたから帰ることになった。邸に戻り直ぐに父と兄に話した。  「生きていたか。何処にいる?」  「ひと月以上目を覚ましてないことと、命を狙われていることもありまして、目立つ行動は避けて欲しいそうです。」  俺が父に答えると、今度は兄が意見を言った。  「父上、ペネライカ嬢は公爵家で保護した方が医者も呼べるし、警備も強固に出来ると思います!」  「いや、今は危険だろう。1度攫われている。相手がわからないのだ。医者すらも我々に知られず味方にすることも出来るかもしれない。」  「ですが!」  兄はそこまでペネライカ嬢を思っているのか?ここまで取り乱す人ではなかったはず。父の話も聞けず、自分の意見を押し通すようなことは初めてだ。  「ロウダン、落ち着け!焦ってペネライカ嬢が殺されてもいいのか?」  「そんなことはさせません!では、お前は犯人がわかっているんだな?証拠も、今まで攫われた令嬢たちも何処にいるかわかっているんだな?それはロウダン、お前が犯人だと言っているようなものでもあるぞ?」  「違います!俺はペネライカ嬢を助けたくて―――」  「もういい。今は頭を冷やせ!このことは落ち着いて話し合いが出来るようになってからだ。ウェイリスもご苦労だったな。戻っていいぞ。」  「・・・・・・。」  「はい。」  俺は一礼して父の執務室を出ていく。兄は無言だった。嫌な予感がする。このままではいけないような。でもどうしていいのかもわからなかった。
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