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次の日、俺はネリュに父と兄に話したときの兄の様子を話した。もちろん誰もいない場所で話している。
「不味いことになるかもな。ウェイ、覚悟はしたほうが良いかもしれない。」
「は?」
「いや、後継の変更が起きるかもしれないって、おい、ウェイ。どうした?」
「―――後継の、変更。」
確かに、問題があるなら後継が変更されることもある。今の兄では無理だと父に判断されれば―――。でも、俺は、レクス以外は無理だ。身体に触れられたくもない。母と妹は大丈夫だが、他の令嬢なんかは論外だ。何処かの令嬢と婚姻なんかするくらいなら、俺は―――。
「ウェイ、顔色が悪い。今日は帰ったほうが―――。」
「あ、ああ。そう、だな。」
俺はそのまま帰ることにした。いや、本当に帰る気はない。何処かに行ってしまいたかった。誰もいない場所に。レクスと会話すら出来ないなら、俺はここにいる意味を見出だせない。家族を裏切り、見捨てる行為だとしても。
☆
ウェイの顔色が悪く早退することを薦めてから10日。ウェイは学園を休んだままだった。何か重い病にでもかかっていたのか?ここの所、ウェイは空元気に見えた。悩みを抱えていたのは間違いない。
ケディルオス侯爵令嬢が未だに目を覚まさず、誘拐事件の調査の進み具合はあまり良いともいえない。それに加えてベレルの冗談の度合いが日々を高まっている。最近ため息が増えた気がする。ウェイのことが心配だから1度見舞いにでも行くか。
「ウェイはいない。10日ほど前に学園に行ったきり帰ってない。行方不明だ。」
「えっ?」
俺はウェイの父親であるナドゥレイ公爵の言葉に思考が停止した。信じられなかったこともある。だってウェイは竜の種族特性を持っている。1番強いタイプといっていいはずなのに。何があったんだ?
「ネリューズ君。きみはウェイの友人だと言ったね?きみの方がウェイの行き先に心当たりがあるのではないか?」
「それは、どういう―――」
「話は終わりだ。私は色々と忙しいんでね。」
追い出されるようにして公爵家を後にした。このままケディルオス侯爵令嬢の様子を見に行くしかない。なんとなくだが、ナドゥレイ公爵は俺のことをウェイが行方不明になった原因だと思っているようだった。俺は何もしてないぞ?
「ウェイはもう来ないのか?」
「わからない。」
ケディルオス侯爵令嬢を保護している小さな家に着くなり、ベレルが聞いてきたから俺は突き放すようにして答えた。なんなんだよ。ベレルも俺が悪いとでも思っているのか?
「あの女が目覚めれば違っていただろうに。」
「ベレル!何か知ってるのか!?」
「ウェイは攫われたんだろ?それも自ら。」
「どういうことだ!?」
ウェイが自ら攫われたと言ったベレルに詰め寄る。何か知っている。俺の勘がそう告げていた。
「1度は助けた。大丈夫だからと言ってたからな。そんなに弱いやつでもないだろ?だから帰ってきた。ただな。抵抗ひとつしてなかったんだよな。だから自ら攫われたかったのかと思ったんだが。」
「何でそのまま連れて戻らなかったんだ!」
「知らねーよ。ウェイはお前の友人ではあるんだろうが、俺にとっては別にそこまで重要ではない。ウェイは何であの娘が目覚めないのか知りたかったのかもな。お前が拒否したから何も進展しないままだし。」
ウェイは自分のことだけはあまり話さない。家族間で何が起こったのかは話してくれた。ウェイがレクスを好きなんだと気づいたのも、ウェイから聞いたわけではなく、ウェイがレクスを何度も見ているから気付いただけだった。
「そうか。」
攫われることでわかることもある。自分の置かれた状況が嫌いなわけでもなかった。けれど、物心ついた時には既に俺は後継の指導をされていた。だから、自ら望めない婚姻相手が誰であっても受け入れる気でいた。俺も攫われたらいいのか。何故かそう思った。
「おい。ネリュ?」
ベレルの声を無視して俺は外に出た。そのまま誘拐事件の良く起こる場所を彷徨い始めた。すると、思った通りに全身黒で纏った者たちに羽交い締めにされた。最初からこうしていれば良かったんだ。後継だからとか言い訳しないで、自ら攫われに行けば何かわかったことだった。きっとこれで何かわかるはず。ウェイの居場所も。俺は自分に言い聞かせるように心の中で呟き、そっと目を閉じた。
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