竜の血族と竜族

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 1度深呼吸をしてからウェイリスは話を続けた。  「そんな時に、俺の友人のネリュが森の中に建てられた小さな家に連れて行ってくれた。そこにいたんだ。兄の婚約者候補の令嬢は目を覚まさないまま寝かされていた。」  ここまで聞いても何が問題なのか俺には分からない。きっとこの後にわかるのかもしれないな。  「誘拐犯を捕まえるため、事件を解決するため、令嬢は目を覚まさないまま医者も呼べずに家から動かせないって言われたよ。それを父と兄に伝える許可をもらって話した。」  探していた人物が見つかったんだから、ウェイリスの行動に間違いはないはず。それなのに苦しみと悲しみと不安が伝わってくる  「父と兄は婚約者候補の令嬢に会うことは許可されなかった。聞いてないから確信はないけど、兄はその令嬢に惹かれていたんだと思う。それからは兄は狂っていった。医者も呼べないから令嬢は目覚めるかわからない。会うことも出来ない。俺だって、レクスが意識不明で会うことも出来なかったら辛い。そう思うと兄にかける言葉は浮かばなかった。」  気付けば俺はウェイリスを抱き締めていた。現実では全裸で抱き締めている状態ではあるが、そんなこと今は関係ない。意識内のウェイリスも抱き締めたかった。  「レクスの温もりは安心する。ありがとう。」  「そうか。それなら良かった。」  安心すると言われて俺も安堵した。拒絶されなくて良かった。  「令嬢の寝かされている家に、ネリュが雇ったらしい男性と女性がいたんだ。年齢は俺たちと同じくらいかもしれないけど。2人は兄妹だと言ってた。その兄の方がネリュに言ってたんだ。「俺のモノになるなら令嬢を目覚めさせることに心当たりがあるって。」取引ってことだよね。でも、ネリュは後継だから、親が決めた相手と結婚して家を継がなければならない。だから、提案は呑めなかったんだと思う。でも、きっと2人は思い合ってる。」  おそらくはアイツだろうな。心当たりというのは俺の事だろう。アイツも関わっていたのか。  「兄が狂っていったことで問題が生じたんだ。貴族は、長男が後継には適さないと判断されたら、後継が次に移る。俺が後継となる可能性が出て来た。俺はレクス以外は受け付けない。他の人とって考えただけで嫌悪感でどうにかなりそうだった。だから―――」  「攫われてもいいと思った?」  続けた俺の言葉にウェイリスは頷いた。俺だけがいい。そう言われると嬉しくなる。けれど、今は喜んでばかりはいられない。  「攫われてもいいっていうなら、俺が攫ってもいいってことだよね?」  「レクスに攫われるなら喜んでついていく。家を継ぐのは無理だ。俺はレクス以外に触れてほしくない。」  「それなら、起きて。俺がウェイリスを保護してる。俺以外はウェイリスの肌に触れてない。だから、安心して目を覚まして。」  少しずつウェイリスが安心していくのがわかる。それでも完全に不安は取り除けない。あとは現実で俺がウェイリスを安心させてあげたらいいから。  「レクスがずっと側にいてくれるのか?」  「うん。離れない。」  「そっか。」  ウェイリスの覚醒と共に俺も追い出されるようにして戻った。  「え?な?」  「ちょっ、キツイ。締めないで。」  「え?あれ?レクス?」  「だから、最初に、謝ったよね。同意を得てないこと。」  「――――――。」  ウェイリスが俺の首に両腕を回してギュッと抱き締めてきた。両足も俺の腰に回されている。俺の腹の下ではウェイリスが育って固くなっていた。俺はそっとウェイリスの首元にある鱗に触れた。  「―――っ!」  「ウェイリス。話をしようか。」  「離すなよ。このままでいい。」  上半身を起こそうとすると、ウェイリスの腕の力が強まって起こせなかった。嬉しいが動きたくなる。まぁ、でも。ウェイリスが望むなら仕方ない。  「わかった。ウェイリスは攫われてもいいって言ってたね。もう学園には行かないの?」  「今のままだと行きたくない。ここにいていいなら、ずっといる。」  「ここには長居する気はないから引っ越しはするけど。ウェイリスの友人は大丈夫なの?」  「ウェイでいい。親しい人はみんなそう呼ぶから。」  「わかった。」  ウェイリスは考え始めた。友人はきっと後継を受け入れているから、放っておいても問題ないとでも思っているのだろうか。  「外の情報を聞いてからにしようか。」  「そうする。ってレクス、外の情報集められるのか?」  あれ?そういえば、俺自身のこと話してなかったな。  「ウェイ、きみは俺が人族だと思っているじゃない?」  「え?違うのか?」  「違うよ。そもそも俺には人族の血は1滴も流れてない。」  「え?」  「きみがその身体に竜の鱗を持つ意味を考えたことはある?」  ウェイリスは少しずつ混乱していっている。今は不安とか恐怖とかそんなものより、俺が人族ではないことに混乱しているらしい。  「人の姿をした竜族がいるから、鱗を身体に持つ人も産まれたってことだよ。俺は純粋な竜族なんだ。」  「竜、族?レクスが?」  「うん。少しなら出せる。ほら。」  俺もウェイリスと同じ場所に少しだけ鱗を出した。勿論ウェイリスと色は違う。  「本当に、鱗が、ある。綺麗な銀色だ。」  「これでわかってくれた?本当は髪と眼の色も変えているから本来の色ではないけど。ここでだけ戻そうか?」  「出来れば。見てみたい。」  直ぐに俺は鱗を消した。髪と眼の色も戻すかウェイリスに聞いた。頷いたウェイリスが腕の力を弱めたから、髪と眼の色を戻してウェイリスと視線を合わせる。  「綺麗な銀の髪。鱗と同じ色だ。それに、俺と、同じ眼の色―――っ。」  俺の眼を覗き込んですぐにウェイリスは視線を逸した。その顔は耳まで真っ赤になっている。可愛いな。それが俺の感想だ。  「何でこっち見ないの?」  そう言ってウェイリスの顔を俺の方に向け、真っ赤になるウェイリスの唇に自分の唇を重ねた。漸くキスが出来る。唇を舌でこじ開けて、恐る恐る口を開いたウェイリスの口内を堪能した。
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