夢幻泡影

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夢幻泡影

日々の努力でしか得られないもの、時間も人生も掛けたもの…それが一瞬で失われることもあるのだと、そんなこと知りたくなかった。そんなことを知るのはせめてもう少し先でよかった。 私はその日もいつも通り、7時から15時までのアルバイトをしていた。 午後から降り始めた雨のせいで、お客さんが入って来る度にフロアが濡れ、何となく汚れた色合いになるのを見て、フロアの色を変えて欲しいと5回くらい思うのが雨の日のお決まりだ。 「お先に失礼します」 「お疲れ。才花、世界大会まであと1ヶ月きったって?副店長がシフト作りながら言ってた」 「うん、そうだよ」 ツトムもここで私と同じくらいのアルバイト歴がある同い年の大学生だ。 「頑張れよ」 「ありがと。スクール、いってきます」 「いってらー」 ツトムに軽く手を振り、手を洗って更衣室に入ってから、熟したバナナとドライデーツを食べる。食べる物は毎日同じではないけれど運動前の補食を摂るのは毎日だ。スクールに着いてから食べたのでは遅い。 それから着替えて裏から店を出ると、用水路を渡って駅への近道を通る。
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