夢幻泡影

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駅で電車を待ちながらスマホを見ると、事故の電車遅延により先生のトニーが遅れると連絡が入っている。それはかまわない。トニーが居なくても皆でやる練習も多いし、ずっとトニーがいたって最後のチェックだけしかしてもらわないこともある。 彼はいつもは自転車でスクールに来るのだけれど、雨だから電車にした日に限って事故遅延って可哀想。ついてないよね。まだ帰宅ラッシュでなくて良かったのか。 この時間、のんびり頭を動かすのもいつものこと。意識的にか無意識かはわからないけれど、8時間のアルバイト後、スクールへ移動するこの時間は音楽も聞かずにボーッとしている。強風が吹いていようが、雨が降っていようが、1日の中で最も暇でボーッとしている。 叔母が、私一人の移動中に音楽を聞くことを禁止したのは中学生の時だったな。 ふと、手に持ったままのスマホを見ると ‘バイト、終わった?夜まで降るから、スクールを出たら洋輔さんに連絡入れて。駅まで迎えに行ってくれるよ’ と叔母からメッセージが入っていた。叔母の茂美は亡き母の妹で、私はしーちゃんと呼んでいる。 そのしーちゃんと2年前に再婚したのが木村洋輔さん。洋輔さんには私より1歳年下の娘、大学生の(かおり)さんがいて3人が一緒に暮らしているので申し訳なく思って、私は週に二度のしーちゃんの夕飯をもういらないと言ったんだけど、しーちゃんにすごく怒られた。 「才花を娘のように育ててきたのに、娘を手放すような再婚をするはずないでしょ?」 私が9歳の時、母が亡くなってから私を育ててくれたしーちゃんが本気で怒ったんだ。
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