夢をみる

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それはこのあとの2ヶ月間も同じこと。 世界一を目指してのレッスンとコンディショニングは欠かせない。 体力、精神、技術、医療、栄養、環境といった要因から影響を受けるコンディションをコントロールする。つまり、それらに総合的にアプローチして競技の際に能力を最大限に発揮出来るようにコンディショニングの必要がある。 だから本選2ヶ月前の今、費用への不安を無くしておくことは大切なこと。そう割りきって、シャワールームから出た。 「こっちだ」 私が着て来た服を着ている途中で、開いたままだった部屋のドアからバスローブ姿の男が言う。当然帰るのだと思いドアまで行くと 「座れ」 顎でソファーを示され、男は水のペットボトルと珈琲の入ったマグカップをローテーブルに置く。男は座らず、水と珈琲がどちらも並べてあるので私に出してくれたのだろう。正直、水は嬉しい。だけど、寝室以外で寛ぐようなことは違うと思う。 「お水を頂いていいですか?」 最初の挨拶以外に話をしたのはこれが初めてだ。本来なら‘ありがとうございました’と帰るはずだったのに。 「座って飲め」 感情の読めない声に従いソファーに浅く腰を掛けると、ペットボトルの蓋を開けて一気に半分ほど飲む。その私の前に男がお札を置いた。 「…多いですけど?」
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