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「延長は倍額、プラス深夜手当。妥当なところだ」
延長は倍額の10万円?深夜手当が1時間に5万円?明らかに多いんですけど…
「…電話していいですか?」
「どうぞ」
そう言った男が向かいに座って、ソファーにゆったりともたれる。もう私に触れるつもりはないようだが、あまりにじっと見つめられ、そっと珈琲を男の方に置いた。ふと、男の表情が緩んだ気配がしたけれど、電話が繋がったので男を見ることもなく
「もしもし…」
とだけ言う。電話番号で私だと分かっているはずなので、男の前で名乗らない。
‘はい。あと10分ほどですが、もうお迎えでよろしいですか?’
「伺いたいことがあってお電話しました」
‘はい’
「お客様が、延長は倍額、プラス深夜手当という支払いを申し出ておられるのですが、そこの料金設定を確認していなくてすみません」
‘それでいいです。受け取ってください’
「ぇ…深夜手当なんて…元々、深夜のお仕事…」
‘お客様の前でそれ以上は失礼になります。受け取ってください’
「はい、すみません」
‘10分後に降りて来てください’
「はい。お願いします…」
そう言いながらスマホを耳から離し、男を見ると‘あってるだろ?’と言わんばかりに首を傾げ、相変わらず視線は真っ直ぐに私を見ている。
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