9875人が本棚に入れています
本棚に追加
バスローブ姿で私の手首を握って玄関まで歩く男の形のいい耳を見ながら、右耳にピアスホールが2個って私と同じだな、と思う。そしてバスローブで送るって、玄関までのことだったのかと理解して、寝ぼけてると思ってごめんなさいと心の中で謝った。
が、
カチャ…
ん?出るのは私なんですが…
「履けたか?」
手首を握ったままの男がかかとのないスリッポンを履いてドアを開けたので、思わず立ち止まった私は普通の感覚だと思う。でももう話をするつもりはないし、下には迎えが来ているからいいやと思ってドアから出た。そしてすぐ目の前にあるエレベーターのボタンを押した男が
「ここまでだな。1階までどこにも止まらないから大丈夫だ」
私の手首を引き寄せると軽く抱きしめてからエレベーターに乗せてくれた。そういうことか、と理解した時には扉が閉まりきる寸前で慌てて頭を下げる。
来た時には緊張していて気づかなかったけど、最上階のワンフロア全てが男の部屋で直通のエレベーターは最上階と1階と地下にしか止まらないのだろう。だから、あそこまでバスローブで出ようが、全裸で出ようが問題ないのだと思う。
「お疲れ様でした。どうぞ」
「ありがとうございます。追加で頂いた分のうち、どれだけをお渡しすればいいでしょうか?」
「全部取っておいてもらって大丈夫です」
お迎えの人はそう言うけれど、この人も1時間延長のはずでいくらか渡さないといけないと思うのだけれど。
「本当に大丈夫ですから取っておいて下さい。ご自宅まで送ります」
「…お願いします…」
最初のコメントを投稿しよう!