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会えるんだ…
「急だが明日いいか?」
そう言う羅依だけでなく、タクの視線も感じながら小さく頷く。明日は緒方先生のジムの日だけれど、父の都合があるのだろう。
「何も心配ない、大丈夫だ」
「うん」
「名前は小松元樹さん」
「こまつ…もとき…知らない…」
当たり前のことが言葉になり、自分でも可笑しくて苦笑いだ。
「それから…」
「それから?」
「母親の違う兄がいる」
「……兄…ってお兄ちゃん?」
「そうだ」
当たり前のことを再び言ったけれど、いつもならツッコミそうなタクも静かにじっと私を見ていた。
「一緒に会える」
「…いいの?」
「二人とも才花に会いたいと言っている」
「そう…いいんだね」
父に会えるということより、兄という想定外の存在を知らされた衝撃が大きい。でも兄というからには、私より年上の大人なんだから…その人が会いたいと言ってくれるならいいのだろう。
羅依に抱きしめられながらも眠れない夜を過ごした私は、翌日、指定されたホテルの部屋へ羅依とタクと一緒に行った。ここに宿泊しているのだろう。
「才花、押せ」
手を繋ぐ羅依は、私に部屋のベルを押すように言う。私は繋がれていない方の手でゆっくりとベルを押した。カチャ…
「ぁ…」
部屋の中からドアを開けた人…それはあの夜、私を送迎してくれた男性だった。
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