黒い後ろ楯

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「才花」 ボーッと突っ立っている私の手を一旦放した羅依が、私の腰に腕を回してゆっくりとソファーへと導く。手を引っ張ると、咄嗟の体重移動がうまく出来ないから配慮してくれたのだろう。 「私から話そうか?それとも、聞きたいことを何でも聞いてもらってもかまわないよ」 そんなに優しく言われたって、聞きたいこともわからない。聞きたいことが混ざり合ってぐちゃぐちゃに絡み合って吐き出せない。私が頭を横に振ると 「うん…何から話そうか…私が一番好きなのは、才花さんのロスでのダンスだとまず伝えようか」 小松さんが意外なことを口にしたので驚く。 「親父、その順番はおかしい」 「俺もそう思うよ。小松さんと一樹が自己紹介して父だ、兄だと名乗るのが普通じゃないの?」 「タク、二人に普通を求めるな」 普通じゃないんだ…羅依を見ると 「大丈夫だ、才花。何も心配ないし、何も変わらない」 彼は私の肩を抱き、その手で腕を擦った。 「私はね…反社会的と言われるところに昔からいてね。成美(なるみ)とは、うちが経営する店で知り合ったよ。彼女がジャズシンガーだったとは知っているかな?」 「…はい」 成美は母の名前だ。 「彼女の歌を聞いたことは?」 「ありません…」 「そう…私は彼女の歌う姿が好きでね。普段の静かさと歌う姿のパワフルさとのギャップが魅力的で…ステージで弾けるのは成美と才花の…才花さんの共通点だね」
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