殿下、溺愛する相手がちがっています！

よん

「ご、ごめんなさい！　あの……フォックス殿下、アルディリアさんがテラスでお待ちですよ。いますぐ、テラスに戻ってください」

　そう、フォックス殿下はアルディリアさんと一緒にいないと。

「なぜ？　僕はあの子とお茶の約束していない。ラビット、どうして学園に入ってから僕から逃げるの？」

「に、逃げてなどおりませんわ」
「嘘だ、僕を避けてる」

　――ダメ⁉︎

　わたしの好きな、フォックス殿下。
　大好きなフォックス殿下がわたしの側に来るだけで、好きがあふれる。これ以上はわたしの獣化への『トリガー』を引いてしまう。

　彼は知っているはずなのに……さらに、わたしに近付き、首筋を嗅いだ。

「⁉︎」

「ラビットの甘い香りが、さらに濃くなった」
「ダメ！　フォックス殿下……は、離してください……」

「離さない、ラビットはどこもかしこも、苺のように真っ赤だ――今すぐにでも食べてしまいたい」

　フォックス殿下は赤く染まった、わたしの首筋にキスを落とした。

「「ぴゃぁ！」」

「フォックス殿下！」
「フォックスが、やりおったにゃ」

　フォックス殿下が……殿下が、わたしの首筋にキスしたぁ！！！

　トックン、トックン……わたしの鼓動が跳ねる。
　わたしのフォックス殿下、好きが大きくなる。

「あーん、もう無理ぃ！」

　ポン！

　わたしの姿は黒ウサギに変わり、枝の上から落ちてきる。わたしが身につけていたドレスは、すべてアルの魔法の箱に回収された。

「アル、アル――！」

　わたしは側近のアルを呼んだが、先に降りたフォックス殿下に抱き止められた。その様子をまったり見ていた、聖霊獣ルフ様はフワリと、自分の体を浮き上がらせ。

「フォックス、ラビットに意地悪をしてはダメですにゃ」

「ルフ様、これの何処が意地悪ですか？　――でも、僕をそうさせてしまうのは可愛いラビットのせいですよ」

　ルフ様は呆れ顔を浮かべた。

「フォックスのやり方は卑怯にゃ。獣化した、ラビットをアルに渡すにゃ」

「嫌です」

　わたしを返さないフォックス殿下に。

「フォックス殿下が……ラビットお嬢様を大切にされているのはわかっております。ですが、ラビットお嬢様を返してください。いくら婚約者でも……いまのラビットお嬢様に触れてはなりません！」

「うるさい！　ラビットの従者アル、君にだけは渡さない！」

　フォックス殿下は目を細めて微笑み、瞬時に魔法を使って、ラビットごと己の姿をけした。

「にゃっ、消えた。アルの正体に気付かず、敵視するとは……奴はまだ子供にゃ」

「はい、フォックス殿下はラビットお嬢様が好きで、好きで、食べてしまいたいくらいに好き。婚姻前の性交渉は遠慮していただきたいのです。……僕が旦那様に怒られる」

　なげくアルに、ルフ様は無理だと首をふる。

「アイツに我慢は無理にゃ……出会ったときからラビット一筋。悠長に魔法を使いこなして、今や、ラビットの後を付け回す変態にゃ」

　変態――フォックスにピッタリな言葉だった。