ネズミ

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ネズミ

目の前を一陣の風が吹き抜けた。彼が走り去った後は砂埃が舞い、神々しいとさえ思う空間が出来上がる。 誰にでも憧れの存在っていると思う。僕にとっては彼がまさにそれだ。スタイルが良く、足が速くて力持ち。誰からも格好良いと噂される存在だ。この間も、僕が軽くイジメられていたのを助けてくれた。正義感も強いんだよね。 彼は考え事をしたり、ちょっと一息つく時に右耳を軽く掻く。僕も、何かある毎に右耳を掻く癖をつけた。推しの真似をすれば、親密になったかのような気持ちになれるもんね。 僕は彼の事をストーカー並に観察しているから分かる。今日、彼は体調が悪そうだ。いつもより動きが鈍い。どうしたんだろう……。風邪かな?早く元気になって欲しい。 翌日、いつものように彼の姿を探し、彼を見つけて僕は固まってしまった。彼がピクリとも動かないんだ。近付いて呼吸音が無いのを確認し、しばらく呆然と立ち尽くした。命というのは何て儚いんだろう。意外にも、悲しいとか可哀想とかいう感情は湧かなかった。喪失感っていうのかな?心にポッカリと穴が空いたような感じ。でも、明日からどうしようとか考える時間も無さそうだ。だって、少し前から頭痛と目眩(めまい)が酷く、身体が思うように動かない。恐らく彼と同じ症状……もう長くはないだろう。別に死ぬのは怖くないし、神様助けてって感情もない。誰だっていずれ死ぬんだから。でも、もし生まれ変わらせてもらえるなら、次の人生は彼のように格好良い生きざまでありたい。
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