1人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
箱
真夜中と言うには少し早い11時44分。くらやみラジオのお時間です。
本日のお話はミーナさん、20代の女性からのお便りです。
私の母は大雑把な性格で、すぐに何でも安請け合いしてしまいます。
私は就職先の寮住まいで、父は単身赴任中。片付け下手の母一人の実家はいつも物が散乱しています。
3ヶ月ぶりに帰った時、奇妙な物に気がつきました。
散らかったテーブルの端に小さな木製の箱。5センチ位の立方体で、ぱっと見ても開ける部分はありません。
何気なく手にとって背筋に悪寒が走りました。
「お母さん、何これ!」
「どうしたのよ。大声出して。ああ、それ?スーパーでよく会う人から預かったのよ。事情で手元に置いておけないから、しばらくの間って。」
「誰?ご近所の人?」
「杉野さん。どこに住んでるのかは知らないけど…」
「そんな、いい加減な…」
「大丈夫、大丈夫。問題無いって。ちゃんと失くさないように、テーブルの上に置いてあるし。」
心配してるのはそういうことではなかったのですが、呑気そうな母を見ていると、さっきの嫌な悪寒が気のせいと思えてきました。
試しに箱に触れてみても、何も感じません。
私はそれきり箱について口にしませんでした。
事態が急変したのは、それから一月あと。母が倒れたという電話があったのです。
買い物途中で倒れたらしく、近所の人からの電話で慌てて、病院へ行きました。
脳卒中で、緊急手術。覚悟だけはしておいてくださいと言われて、身体の力が抜けました。
あの箱のせいだ。
根拠はないけれど、わたしはそう思いました。何かのせいにしたかっただけかもしれません。
わたしは、病院を飛び出して、近所の神社に向かいました。
もう夜です。夜になると、社務所にも人が居なくなる小さな神社ですが、正月に毎年参詣する馴染みの神社です。
お社に手を合わせ、一心不乱に母のことと箱のことをお願いしました。
パキン
小さな、何かが爆ぜる音がしました。
終わったのだ。もう問題はない。なぜかそう思え、わたしは一礼をして、病院に帰りました。
手術は成功し、母は助かりました。後遺症もなく、今も元気です。
箱については…母の入院準備をするために実家に帰った時はもう見当たりませんでした。
『杉野』さんに返したのか、どこかにしまい込んだのか…何となく箱について口にしたくなくて、どうなったのか知りません。
思い込みにすぎないと言われればそれまでの、わたしの体験です。
お便り、ありがとうございました。
また、いつかの夜にお会いしましょう。
最初のコメントを投稿しよう!