第3話 妖なる女主人(4)

1/1
前へ
/26ページ
次へ

第3話 妖なる女主人(4)

「これは、あくまでも『トンツァイの情報』に過ぎないわ。それは念頭に置いておいて」  シャオリエは、そう前置きをした。 「まず、ひとつ目の事実。ホンシュアは、お前の継母の署名入り許可証を持って、藤咲家に入った」  残酷な事実が、メイシアの耳を打った。 「……これから推測できることは、お前の継母がホンシュアと繋がっているということ。勿論、これだけでは偽造や盗難の可能性も否定できないわ」  事務的に紡ぎあげられるシャオリエの言葉は、事実と推測とを切り分けてあり、正確だった。 「ふたつ目。ホンシュアと呼ばれる女が最近、斑目の屋敷に出入りしているらしい。みっつ目。昨晩、藤咲家に斑目の使者が来た。開門の様子から、藤咲家側は、あらかじめ来訪を知っていたと推測される。――これが、トンツァイから聞いた情報よ。お前ならどう組み立てる?」  実家の藤咲家、ホンシュア、斑目一族。  この三者の色彩が、メイシアの頭の中でぐるぐると回る。  そして、すべての色が混じりあい、真っ黒な陰謀の闇が作り上げられた。 「実家と、ホンシュアと、斑目一族は繋がっている……ということですね」  信じたくはなかった。でも、どう考えても、メイシアにはその答えしか見つけることができなかった。  心臓が締め上げられるように痛む。瞳に涙が盛り上がりそうになるが、そんな貴族(シャトーア)の令嬢めいたことは、もはや自分に許されることではない、とメイシアは必死にこらえた。 「さて? 私は当事者じゃないから真実は知らないわ。ただ、夫と愛息を囚われた女が脅迫されたとすれば、義理の娘が二の次になったとしてもおかしくないわね」 「……」 「誰かのために誰かを犠牲にするのは、恥ずかしいことじゃないわ。――そして、私も、ね?」  シャオリエの言葉に微妙な色合いが含まれ、メイシアの背に戦慄が走った。 「もともと斑目は鷹刀と対立している。隙あらば、と仕掛けてくる。今回だって、斑目は初めから鷹刀を狙っていたのかもしれない。――けれど、貴族(シャトーア)の娘が凶賊(ダリジィン)を訪れるなんて、あり得ない蛮勇を犯さなければ、鷹刀は平和なままだった」  獲物を狙う、獣の目。アーモンド型の瞳には剣呑な光が宿っていた。 「私は、お前が嫌いではないわ。むしろ好ましいと思っている。……けれど、これからきっと、鷹刀は罠に落ちる――お前のせいで」  シャオリエの視線がまっすぐにメイシアを射抜いた。 「……だから、その前に。私はお前を排除する」  しっとりとした心地のよい音質。しかし、完全に感情を取り払った声であった。  個人的な恨みではなく、ただ鷹刀一族の行く末のためだけに、シャオリエはそう宣告した。
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!

28人が本棚に入れています
本棚に追加