28人が本棚に入れています
本棚に追加
第3話 妖なる女主人(4)
「これは、あくまでも『トンツァイの情報』に過ぎないわ。それは念頭に置いておいて」
シャオリエは、そう前置きをした。
「まず、ひとつ目の事実。ホンシュアは、お前の継母の署名入り許可証を持って、藤咲家に入った」
残酷な事実が、メイシアの耳を打った。
「……これから推測できることは、お前の継母がホンシュアと繋がっているということ。勿論、これだけでは偽造や盗難の可能性も否定できないわ」
事務的に紡ぎあげられるシャオリエの言葉は、事実と推測とを切り分けてあり、正確だった。
「ふたつ目。ホンシュアと呼ばれる女が最近、斑目の屋敷に出入りしているらしい。みっつ目。昨晩、藤咲家に斑目の使者が来た。開門の様子から、藤咲家側は、あらかじめ来訪を知っていたと推測される。――これが、トンツァイから聞いた情報よ。お前ならどう組み立てる?」
実家の藤咲家、ホンシュア、斑目一族。
この三者の色彩が、メイシアの頭の中でぐるぐると回る。
そして、すべての色が混じりあい、真っ黒な陰謀の闇が作り上げられた。
「実家と、ホンシュアと、斑目一族は繋がっている……ということですね」
信じたくはなかった。でも、どう考えても、メイシアにはその答えしか見つけることができなかった。
心臓が締め上げられるように痛む。瞳に涙が盛り上がりそうになるが、そんな貴族の令嬢めいたことは、もはや自分に許されることではない、とメイシアは必死にこらえた。
「さて? 私は当事者じゃないから真実は知らないわ。ただ、夫と愛息を囚われた女が脅迫されたとすれば、義理の娘が二の次になったとしてもおかしくないわね」
「……」
「誰かのために誰かを犠牲にするのは、恥ずかしいことじゃないわ。――そして、私も、ね?」
シャオリエの言葉に微妙な色合いが含まれ、メイシアの背に戦慄が走った。
「もともと斑目は鷹刀と対立している。隙あらば、と仕掛けてくる。今回だって、斑目は初めから鷹刀を狙っていたのかもしれない。――けれど、貴族の娘が凶賊を訪れるなんて、あり得ない蛮勇を犯さなければ、鷹刀は平和なままだった」
獲物を狙う、獣の目。アーモンド型の瞳には剣呑な光が宿っていた。
「私は、お前が嫌いではないわ。むしろ好ましいと思っている。……けれど、これからきっと、鷹刀は罠に落ちる――お前のせいで」
シャオリエの視線がまっすぐにメイシアを射抜いた。
「……だから、その前に。私はお前を排除する」
しっとりとした心地のよい音質。しかし、完全に感情を取り払った声であった。
個人的な恨みではなく、ただ鷹刀一族の行く末のためだけに、シャオリエはそう宣告した。
最初のコメントを投稿しよう!