29人が本棚に入れています
本棚に追加
第4話 鳥籠の在り処(3)
「シャオリエ姐さん、ルイフォンたちを案内してきました」
スーリンが部屋に入ってきて、そう告げた。シャオリエは煙管を吹かせながら「ありがとう」と応える。寝不足で顔色の悪いルイフォンに仮眠を取らせるべく、シャオリエは彼を二階の部屋に追いやったのだった。
彼はすぐにも出かけようとしていたのだが、シャオリエの眼力とメイシアの嘆願がそれを許さなかった。シャオリエがメイシアに付き添いを命じると、彼女が喜んで引き受けたので、しばらくは彼もおとなしく休んでいるだろう。
「結局、何を企んでいたんですか?」
スーリンがくるくるのポニーテールを揺らしながら、小首をかしげた。
「メイシアさんに内緒で、ルイフォンに『睡眠薬入りのお茶を出すように言われたけど、出さない。あとはルイフォンに任せる』と伝えろ――だ、なんて」
「ああ、その話ね」
シャオリエは、ふう、と煙を吐き、口角を上げた。
「あの子、呆れるくらい大根役者ね……。笑いをこらえるのに苦労したわ」
「……」
「狸寝入りと本当に寝ているのとでは呼吸が違うわ。私が気づかないはずないじゃない。だいたい、いくらミンウェイの薬でも、飲んだ途端に効果が表れるわけないじゃないの」
「……姐さん、ルイフォンに突っ込みたかったのに、突っ込めなかったから、私で憂さ晴らししていますね?」
スーリンが、げんなりとした顔を見せた。彼女の主人は、いつだってマイペースで、自己流の信念に基づいた、はた迷惑な人なのだ。興に乗らなければ、まともな返事すら返ってこない。
シャオリエは煙管を煙草盆に戻し、自分の目の前に残された手つかずの茶杯を手にした。セピア色の中身を揺らしながら、言う。
「あの子がどういう反応を示すか、見てみたかったのよ」
シャオリエは初めから、どの茶杯にも何も入れるつもりはなかった。ただ、ルイフォンに、メイシアとのやり取りを黙って聞かせてみたかったのだ。
イーレオの負担を軽くする方法は、何も『排除』だけではない。『分担』もあるのだ。
それに、『今更』かもしれないのだ。――既に鷹刀一族は、斑目一族の罠に落ちている可能性がある。
なぜなら、ホンシュアがしたことは『メイシアを鷹刀の屋敷に向かうように仕向けたこと』だけであり、その後、鷹刀がどう行動するかはホンシュアには制御のしようがないのだ。だったら、メイシアが屋敷を訪れた時点で、もう目的は達成されている、という可能性すらある。
シャオリエは茶杯の中身をあおった。
そして――。
「ぷっ……」
――吐きだした。
「スーリン……。この茶杯に何を入れた……?」
「お砂糖をたっぷりと。だって、シャオリエ姐さん、ルイフォンに何か仕掛けようと企んでいるんだもの。少しくらい仕返しです」
ルイフォンに言った通り、出されたものを警戒さずに口にするのは危険なことだ、と改めてシャオリエは思った。
「お前は、たいした役者だと思うわ」
「だって私は女優の卵でしたもん」
愛らしい顔に、してやったりという笑顔を浮かべ、スーリンはくるくるの巻き毛を揺らした。
最初のコメントを投稿しよう!