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第1話 猫の世界と妙なる小鳥(4)
ルイフォンとメイシアは、お抱え運転手に送ってもらい、繁華街に出た。
目的地はトンツァイの店。表向きは食堂兼酒場だ。だが、情報が酒場に集まるのは常のことで、トンツァイは〈猫〉とはまた別の、昔ながらの情報屋であった。
帰りは適当にタクシーを捕まえると言って、ルイフォンは繁華街の入り口で運転手を屋敷に帰した。ゆっくりはしていられないが、少しくらいならメイシアを連れ回してもよいだろうと考えたのだ。箱入り娘の彼女のことだから、こんな場所は珍しいに違いない。
このあたりは夜のほうが華やかな本来の姿なのだが、朝でもそれなりに活気があった。
旨そうな肉汁の匂いと、温かい湯気が漂ってきた。すぐそこの店先で、蒸かした肉まんじゅうを売っている。今はまだ腹が一杯だが、帰りにメイシアに買ってやってもいいかもしれない。彼女は、おそらく買い食いなどしたことがないだろうから。
その隣には天然石の店。どう見ても安物の石だが、綺麗に加工してアクセサリーや小物に仕立ててた品々は、なかなか良い感じだった。
屋敷を出る際、メイシアに身につけていたペンダントを置いていくよう、指示したことをルイフォンは思い出す。繁華街に行くには貴金属は物騒だから、と彼女には言った。そして今、そのペンダントはミンウェイが専門の鑑定士のところに持って行っている。
メイシアを騙したことには多少の良心の呵責を覚えるが、これは仕方ない。お詫びにブレスレットでもプレゼントしようか、などとルイフォンは考える。石の名前などよく分からないが、桜色が似合うだろう。
遊戯施設は、まだシャッターが下ろされている。こちらはメイシアが得意そうには思えないが、案外ビリヤードくらいならできるかもしれない。あとで時間があったら行ってみるのも……。
睡眠不足で体調が悪いくせに、ルイフォンは浮かれていた。
「なぁ、メイシア」
胡麻を表面にまぶした揚げ団子を横目に、ルイフォンはメイシアを振り返った。甘いものは好きか、と尋ねようとしたのであるが、さっきまで一歩後ろを遠慮がちに歩いていたはずの彼女は、店一軒分くらい後ろにいた。人込みをうまくやり過ごすことができず、離れてしまったらしい。
「あ、悪い」
ルイフォンは、慌てて彼女に駆け寄る。
「いえ。私が周りに気をとられていたのが悪いのです」
彼女は、見知らぬ場所に対する不安と好奇心がないまぜになった表情で、恥ずかしそうに言った。今までより少しだけ子供っぽい顔が新鮮で、ルイフォンの頬が自然に緩んでくる。
「あとで、いろいろ案内してやる。とりあえずは、知り合いのところに行く用事があるんだ」
さすがに往来で『情報屋』云々とは言えないので、そこは誤魔化す。
このまま迷子にするわけにもいかないので、ルイフォンは強引にメイシアの手をとった。彼女が目を丸くするが、「はぐれないように、だ」と片目を瞑ってみせた。
残念ながらルイフォンのご機嫌な時間はそれほど長くは続かず、ほどなくして目的地であるトンツァイの店についた。
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