*2* お菓子配りの魔女

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 よし、見なかったことにしよう。  思い出したように痛む頭をおさえながら、そっと立ち去ろうとするけど、遅かった。  喘ぎ狂うご婦人を後ろから淡々と揺さぶっていた青年が、ふと動きをとめる。  未明の薄暗い路地裏で、猫のように輝く蜂蜜色の眼光が、わたしをとらえた。 「……次は、あなたが僕を買ってくれるんですか?」  んなアホな。  脳内でツッコミを入れるわずかな間に、ぐらっと揺らぐ視界。  ご婦人をはなした青年が、あっという間に距離をつめ、するりと腕を腰にからめてきたんだ。  ずるずると崩れ落ちたご婦人は白目を剥き、いわゆるアヘ顔で「アッ、アッ……」とよだれをこぼしていた。ご愁傷さまです、いろいろと。  そんなご婦人のことなんかもう眼中にないのか、わたしの腰をなぞるなんとも不穏な手つきの青年へ、意識をもどす。 「ごめんなさい、間に合ってます」 「……安くしますよ?」 「あのねぇ、そういうことが言いたいんじゃないの」  こんな路地裏で商売をしているくらいだ。見つけた金づるを逃したくないんだろうけど。 「じぶんを安売りしちゃダメってこと」  わたしを拘束した青年の呼吸が、はた、と止まる。  その隙に腕を抜け出し、つかむものを見失った青年の右手へ、左腕に提げたバスケットから取り出したものをにぎらせた。  そこでようやく青年の蜂蜜色の瞳が、ぱちりとまばたきをした。
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