18人が本棚に入れています
本棚に追加
「男娼にキャンディをわたす、黒いローブの魔術師……まさか、『お菓子配りの魔女』ですか?」
「やだ、そんな風に呼ばれてるの? わたし」
ここで仕事をはじめて、それなりになる。
今日みたいに『お誘い』をかわす理由と個人的な趣味ではじめた『お菓子配り』だけど、そんな通り名がついていたとは。
「でもまぁ、それなら詳しい説明はいらないね。見たところ肌に発疹もないし……そのキャンディ、忘れずに舐めてくださいね。そしたら大丈夫なので」
さっと視診をすませ、さっき強引に抱き寄せられたときにできたローブのしわを、なでて伸ばす。
「ちょっと遠いけど、ここから西へ行った三番街のはずれにきれいな小川があるから、サッパリできますよ。あぁそれと──あなた、前髪を切ったら人気者になるかも」
「え……あのっ!」
「ではでは」
ひらりと右手を振って、ローブをひるがえす。
青年が追ってくることは、なかった。
最初のコメントを投稿しよう!