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プロローグ
ここは、リンネの森の中央に建つ魔女の家。
その家の寝室おおきなベッドで眠るのはわたし、シャーリーとオオカミ獣人のロロ。
(ロロの寝顔、可愛い)
「幸せ……毎日、ロロの寝顔を見られるなんて、前は思ってもみなかった。なんて、わたしは幸福者なのかしら」
そう呟いたわたしの言葉に、寝ているはずのオオカミの青い瞳は開かれ、わたしを優しく見つめた。
「オレだって幸せだよ、シャーリー。ふわぁ……今日はめずらしく早起きだな。こんな朝早く起きて、どこに行く?」
――いつもなら、まだ寝ている時間だ。
それなのに目を覚ましているわたしに、ロロは半身をベッドから起こして、互いの鼻と鼻を擦り寄せ朝の挨拶をする。わたしもそれをまねて、照れながらもロロにあいさつを返した。
「おはよう、シャーリー。それで、どこに行くの?」
「おはよう、ロロ。いまからリリンカ湖のほとりで朝露に濡れるトーリ草と、ローリ草をこの森の精霊達と摘みに行こうと思っているわ」
「トーリ草とローリ草か……懐かしいな。オレも一緒に行こう」
わたしは朝露に濡れたトーリ草と、ローリ草をすり鉢で練って、魔法の水と合わせて傷薬を作ろうと思っている。傷薬ができたら登録している冒険者、商人ギルドかある街。スズランに転移魔法で移動して、傷薬の納品クエストを受けようと思っていた。
あと2日で冒険者ギルドの依頼が更新する。その日までにクエストを一つクリアしないと、ギルドカードが使用できなくなってしまう。それはロロも同じ。わたしは内緒で彼の傷薬も作ろうとしていた。
――ロロは勘がいいし。いつも一緒だから、すぐバレるわね。
あと、貰った報酬で日用品、好きなお肉、パン、野菜などを街で買うつもりでいたのだ。
「そうか。ギルド依頼の更新日が近いのか……スッカリ忘れていた。朝食が終わったら一緒に薬草を摘みに行こう」
「うん、依頼の報告が終わってギルドから帰ってきたら、温室でアップルルを採って、アップルルパイを焼くね」
「いいね。シャーリーのアップルルパイか、それは楽しみだ。先ずは朝食が先だな」
「えぇ」
わたしとロロはお揃いのエプロンを付けて、キッチンに並んで、朝食の準備をはじめた。
幸せだわ。
幸せだ。
2人が、思うことは同じ。
もう一度『会いたい』と願わなかったら、2度と巡り会うことはなかっただろう。
再び、出会えた喜びを感謝しながら。
今日もこれからもずっと、ロロとシャーリーはこの魔女の森リネンで過ごせるのだ。
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