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 フォルマ大陸のリプトン国の北側にリシャンという魔女が住む、季節がないリンネ森があった。この森に生える草、咲く花、立つ木々は枯れることなく青々と生い茂り。外では見ることができない、希少な薬草、植物、花が年中この森では咲いている。    長きを生きる魔女なら誰しもが所有する、自分だけの森。  ⭐︎    ある森の早朝。  バサバサと羽音を鳴らしてリンネ森に"伝書鳥"が外界(がいかい)では長い冬があけ、花々が咲く、温かな春の季節がおとずれたと伝えた。 〈春〜春〜外界に春がきた。ここ、リネン森に住むリシャン様にお届け物だよ。リシャン様にお届け物があるよ〉 「おぉ珍しい伝書鳥か。リシャンはわたしだ!」  春の訪れを告げた"伝書鳥"がもう一つ届けたのは、受取り人しか読めない青い魔法の封書。この封書を温室で私と作業をしていた師匠が受け取った。 〈手紙、受取り人に届けた、届けたよ〉 「ありがとう、どれどれ手紙には何と書いてある?」  届いた封書を師匠は魔法で開け、中の手紙を読み「こうしてはいられない!」と、作業中の温室から隣の家へと飛んで帰っていった。 「え、師匠? リシャン師匠?」 「すまないシャーリー! 急用が出来た!」 「まだ薬草の新芽取りの、作業の途中ですよ!」 「悪い悪い。急がないと間に合わなくなる!」    わからなすぎて「間に合わない?」私も温室から師匠の後を追っかけ、住み慣れた家に入る。先に家に入った師匠はアイテムボックスを開き、クローゼットのローブ、よそ行きの服、パジャマ、下着など全部しまっていた。  その洋服類をしまい終わると、次は本棚の魔導書すべて、愛用の日用品……あるとあらゆる、自分の持ち物をアイテムボックスにすべてしまっている。 「どこかにお出かけですか?」  いきなりの行動に驚く私に、師匠は瞳を光らせ。 「そうなんだ、シャーリー。明日、北の大地で魔女の集会が開催される。いますぐ旅支度を終わらして森を出ないと……夕方発の『クジラ雲』に間に合わなくなる!」  「クジラ雲? ま、魔女の集会?」  魔女になって8年目、まだ新米魔女のシャーリーは「クジラ雲」「魔女の集会」と、はじめて聞いた言葉に首をかしげた。 「あ―。シャーリーには説明が"まだ"だったか。魔女の集会というのはね……世界中に住む、魔女が北の大地に集まるんだ」 「せ、世界に住む魔女が、北の大地に集まる?」  リシャン師匠はコクリと頷き。 「その魔女の集会では恋の話、発見した面白い食べ物、新種の薬草、新しい実験と言った、あらゆる魔女の報告の場。それをみながら美味しい年代物のお酒と、魔女御用達の料理人による、変わったレタス料理が振舞われる。――それがまた美味い!」  いつも生のレタスしか食べない、リシャン師匠の口から料理と聞くだけで驚く。だけど、浮かれる師匠が羨ましい。その魔女会に参加できるのは、魔女歴100歳以上の魔女だけだそうだ。 「ごめんね。集まったみんなに、わたしの娘だと紹介したいけど……若い魔女のシャーリーは集会への権利がない」 「別にいいですけど……リシャンし、母はその集会からの、お帰りはいつ頃になるのですか?」  私の質問に母は『いつになるか、わからない』と言い。   「集まったみんなが満足するまで、宴は永遠と続く」 「宴が永遠? ま、満足?」  私はすぐ家の外、お気に入りの場所でくつろぐ父、フェンリルのキョン父を呼んだ。 「キョン父、キョン父、大変です。リシャン母が永遠にお出かけしてしまいます!」  キョン父は起こされて、眠そうな目を私に向けた。 「ワシは別に気にしない。いずれ、リシャンは帰ってくる」 「いずれって! 父は寂しくないのですか?」 「うーん、別に寂しくないかな」  長き時を生きる怪狼(かいおおかみ)フェンリルだからか。リシャン母がズーッといなくても気にしないみたいだ。
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