エイプリルフールには嘘を吐く

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「わぁ、満開だな。」 確かに満開で美しい。 これが、彼女とのデートなら幸せだが、相手は今回も高林だ。 職場でデスクが隣ということからなんとなく良く話すようになり、おそらく暇だからだろう。 何かというと誘われるようになった。 行かなきゃ良いのに、僕も暇だからつい、高林の誘いに乗ってしまう。 なにが悲しゅうて、男二人で花見に行かにゃ~ならんのだ!? 「……綺麗だな。」 「水野、これって桜じゃないんだぜ。桜もどきっていう桜にそっくりな木なんだ。」 「えっ!?そうなのか?」 高林は急に笑い始めた。 「何なんだよ。」 「馬鹿だなぁ。今日はエイプリルフールだぜ。桜もどきなんてあるもんか。」 イラッ! 高林ごときに騙されるなんて…僕のプライドは傷付いた。 「僕は、エイプリルフールには嘘は吐かないことに決めてるんだ。」 「どうしてだよ?」 高林は怪訝な顔をする。 「おまえ、エイプリルフールの起源を知らないのか?」 「エイプリルフールの起源?そんなのがあるのか?」 「ああ… 遥か昔、ヨーロッパでとても長い戦があったんだ。 王都から始まったその戦は、時が流れると共に田舎の方にも広がって行った。 ある時、長閑な田舎の村が戦禍に巻き込まれることがわかった。 村人達も薄々気付いているようだったが、そこの村人達はほとんどが老人でもはや逃げることも出来ない。」 「え、それじゃあ、村人達は…」 「そこで、兵士長は、村民にこう言ったんだ。 『戦はもう終わった。今夜は宴を開こう!』 その晩は村人や兵士達が広場に集まり、食べ物を持ち寄って、賑やかな宴が開かれた。 皆、とても幸せそうな顔をしていたそうだ。」 「そ、それでどうなったんだ!?」 「次の日、敵兵が攻め込んで来て、村人達は全滅した。」 「えーっ…」 「兵士長が嘘を吐いたのが4月1日… それから、4月1日は嘘を吐いても良い日となった。 村人達は、その嘘により、一瞬ではあれ救われたんだからな。 それがエイプリルフールの起源だ。」 「そんな悲しい起源だったのか。 そんなんじゃ、嘘を吐いても良いと言われても、吐く気にはならないな。」 「……だろ?」 高林は、真面目な顔をして頷いた。 (やった!) 即興で作った嘘にしては、なかなか良い出来だ。 高林は完全に信じている。 果たして、奴がいつ、今の話が嘘だと気付くのか? 僕はやっぱり高林より頭が良い。 吹き出しそうになるのを必死で堪えた僕だった。
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