10人が本棚に入れています
本棚に追加
「わぁ、満開だな。」
確かに満開で美しい。
これが、彼女とのデートなら幸せだが、相手は今回も高林だ。
職場でデスクが隣ということからなんとなく良く話すようになり、おそらく暇だからだろう。
何かというと誘われるようになった。
行かなきゃ良いのに、僕も暇だからつい、高林の誘いに乗ってしまう。
なにが悲しゅうて、男二人で花見に行かにゃ~ならんのだ!?
「……綺麗だな。」
「水野、これって桜じゃないんだぜ。桜もどきっていう桜にそっくりな木なんだ。」
「えっ!?そうなのか?」
高林は急に笑い始めた。
「何なんだよ。」
「馬鹿だなぁ。今日はエイプリルフールだぜ。桜もどきなんてあるもんか。」
イラッ!
高林ごときに騙されるなんて…僕のプライドは傷付いた。
「僕は、エイプリルフールには嘘は吐かないことに決めてるんだ。」
「どうしてだよ?」
高林は怪訝な顔をする。
「おまえ、エイプリルフールの起源を知らないのか?」
「エイプリルフールの起源?そんなのがあるのか?」
「ああ…
遥か昔、ヨーロッパでとても長い戦があったんだ。
王都から始まったその戦は、時が流れると共に田舎の方にも広がって行った。
ある時、長閑な田舎の村が戦禍に巻き込まれることがわかった。
村人達も薄々気付いているようだったが、そこの村人達はほとんどが老人でもはや逃げることも出来ない。」
「え、それじゃあ、村人達は…」
「そこで、兵士長は、村民にこう言ったんだ。
『戦はもう終わった。今夜は宴を開こう!』
その晩は村人や兵士達が広場に集まり、食べ物を持ち寄って、賑やかな宴が開かれた。
皆、とても幸せそうな顔をしていたそうだ。」
「そ、それでどうなったんだ!?」
「次の日、敵兵が攻め込んで来て、村人達は全滅した。」
「えーっ…」
「兵士長が嘘を吐いたのが4月1日…
それから、4月1日は嘘を吐いても良い日となった。
村人達は、その嘘により、一瞬ではあれ救われたんだからな。
それがエイプリルフールの起源だ。」
「そんな悲しい起源だったのか。
そんなんじゃ、嘘を吐いても良いと言われても、吐く気にはならないな。」
「……だろ?」
高林は、真面目な顔をして頷いた。
(やった!)
即興で作った嘘にしては、なかなか良い出来だ。
高林は完全に信じている。
果たして、奴がいつ、今の話が嘘だと気付くのか?
僕はやっぱり高林より頭が良い。
吹き出しそうになるのを必死で堪えた僕だった。
最初のコメントを投稿しよう!