~・花も折らず実も取らず・~

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~・花も折らず実も取らず・~

むかしむかし…… 周囲をぐるりと山に囲まれた隠里に小さな村があった。 雄の一部は時期がくれば毎日山へと入り漆の樹液を集める“漆掻き職人”。 良質な漆が生えている秘密の縄張りをそれぞれに持ち、時には争いが勃発することもしばしばあった。 そんな漆液を村の潤師(ウルシ)が漆器に仕立て上げ、村長(ムラオサ)が数人の使用人達に持たせ街へと売りに行く。 村の場所を漆を狙う者達から隠しているからだ。 その漆器は潤師の腕もさることながら、村の漆の質がやはり希少で艶が全く違うせいか、漆器は異様に売れていた。 まわりが山なもんで、村の入り口はたった一ヵ所しかなく大きな門と左右に部屋があり、それぞれが幼き童子達を漆掻き職人や潤師に育てる村の塾として、引退した長老方より技術を学ぶ場に使われている。 童子達は出入りする村長達を間近で見ながら学ぶことで、未来への憧れと向上心をかきたてられていた。 潤師に若い潤師見習いの弟子がいるように、漆掻き職人にも弟子がいる。 老いてはいるが村一番の漆掻き職人である殿様飛蝗(トノサマバッタ)の厳(ゲン)。 彼は縄張りで幻の縁起物と言われる“天眼漆”と“黒翡翠漆”の木を見つけており、潤師がこぞって彼の漆液を求めた。 特に天眼漆は珍しく、それを塗った漆器は色は黒いが乾くと眼のような模様が浮かび上がる不思議な漆液で、持ち主の災難を払い厄除け・魔除けに効果を発揮することで有名だ。 当然、天眼漆も黒翡翠漆も並の漆に比べ何倍もの値がつく為、他の職人達が妬みなんとか場所を知りたがったが教えてもらえるはずもなく、しつこい輩は後ろ足で蹴り倒されたほどだ。 厳は弟子をとらないことでも有名だったが、かつての恩人である兄弟子の孫を今際の際に託され、仕方なく弟子入りさせた。 この弟子は螻蛄(オケラ)の柑(カン)で、器用ではあるが“オケラの七つ芸”そのままに、三年経った今も、あと一歩のところから脱け出せない状態だ。 柑も前々から厳だけが知っている漆の木を知りたい気持ちがうずいている。 自慢の祖父より聞かされていた厳に学び、さらに立派な職人になり村を盛り立てたいのだ。 なのに厳は縄張りの漆の木には連れては行くが、幻の漆の木の場所を教えようとはせず、いつも一人で行ってしまい柑は行かせてもらえずにいた。
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