002 美祈  side

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002 美祈  side

「それじゃあ、ひらくわね。失礼をしまーす(ガラガラッ)えっ? きゃああッ!」 職員室の引き戸を開こうとしたらその扉が向こう側から突然に開いて、逆光で顔が見えない大柄な男性と見られる胸元が私の視界いっぱいに飛び込んできた。 私は驚いて思わず後ろへ仰け反ると、不幸なことにそこには最近ワックスをかけたばかりとみられる、テカテカに光り輝く床タイルに見事ツルリと足が取られてしまい、私はこれにひっくりかえってしまうところだった。 「やッ、危ない! ミキ、この手にはやく掴れ!」 ハッシ!!! その男の顔は逆光でしかみえずによく分からなかったが聞き慣れ親しんだ声がその影からしたので、相手が伸ばした手に掴まるとすんでのところで私の体はブレーキがかけられた。 もしも助けもなくこのまま倒れてしまっていたなら、きっと今ごろは私の後頭部に大きなタンコブがひとつでき上がっていたことは間違いない。 「あっあの、突然に助けてくれてありがとう、、、!!、、、ってあれえ! お兄だったの!」 私を助けてくれたのは私のお兄ちゃん(のことを私はお兄と呼んでいる)で名前は向原直樹(むかいならなおき)。私の2つ上の学年で3年生。この光南中学校で剣道部の部長をしている。 「ハァ、お前な、慌てていると大怪我をするクセがあるのはまだ直っていないな。ドアを開いたらミキが突然にいるものだからそれはもう驚いたぞ。それにしたってなぜミキはこんな場所にいるんだ?」 「私はぁ、これから担任の先生のところに用事があってきていたのよ。私よりお兄のほうこそ、どうしてここにいるの?」 「俺は部活の顧問の先生のとこに、スケジュールの相談でここに来ていたんだ。あーまさかお前、担任の先生に用事があるだなんて、先生に叱られるために呼び出されてきたんじゃないのか?」 「んもう。そこの発想が黒田くんと同じでまったく失礼をしちゃうわ。私はこれでもクラス内では優等生の評判で通っているんだからね。これは本当なんだから、ねえそうでしょメグ」 後ろにいたはずのメグに振り返ってそう言うと、私の影にこれまで隠れていたメグにお兄はやっと気がついたようだ。  「そうね(モジモジ)。あの、その、こんにちは、、、です。直くん///」 「おやメグなのか? これは久しぶりだね。ああだったら担任の先生に叱られに行くといった線は消えたな。あそれと男子くん、君もどうやらミキの同行人のようだけどお名前は?」 「初めまして向原先輩。自分は黒田っていいます。向原さんとはクラスメイトの付き合いできています。向原先輩のことは天文学部の檜垣部長から、お噂はかねがねと聞いていますよ」 黒田くんはお兄に敬語で挨拶をしていた。黒田くんはその天文学部の部員なのであった。 「なんだ、檜垣のとこの後輩なのか。檜垣といえば俺のことを、とても酷く言ってなかったかい? なにせアイツは男嫌いでとても有名だからさ。天文学部の男子たちは彼女から酷い扱いを受けているんじゃないのかと思って。肉体労働なんかはとてもきついと聞いてはいるけど」 「そんなことはない、、、のではないと言えば嘘になるのかも。たしかに肉体労働は男子に任せてないとはいえないですね、ははははは」 「ワッハッハッハッ! やはりそうだったか。いや放課後に天文学部員たちを団体で見かけると、いつもやけに重たそうな機材を男子が担がされているのを見ているからさ。檜垣は鬼のようだってそれこそ囁かれてるよ。まあ剣道部員の上級生たちだけの噂なんだけどさ」 「ブーちょっとお兄。話がはずんでいるところを悪いけど、ここが職員室の前だということをすっかりと忘れているんじゃないの? それに私たちはこれから用事があるんだから。少しは遠慮をしてよね」 「おっとそれもそうか。こいつはミキに1本を取られたな。俺の用事はもう終わっていることだし、さてそれではすぐに立ち去ることにするよ。それじゃ黒田くんそれとメグ。またな」 こうしてお兄はフンフンと鼻歌をしながら私たちの前から立ち去っていった。ふうーやれやれだ。 「あらメグ? あなた顔が真っ赤になってない?」 メグをよく見ると、お兄の後ろ姿をいつまでも見送りながら頬がのぼせるように赤く染まっていた。 「な、なんでもないの! ほらほら、ミキの用事を済ませに行きましょ!」 「ええ、なによー、私はメグのことを心配していってあげてるのにさー」 私の背中を押し込んで職員室へと入るメグの突然の行動に、私は増々わけが分からなくなるばかりだった。
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