004 美祈  side

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004 美祈  side

4月の入学式を経てクラス内が騒がしくなっていた5月の初旬に、国谷先生はクラスをいくつかの班に分けて互いに競わせ合うことを提案した。一つの班は男子3人、女子3人で作られるということで、班長と副班長が国谷先生に取り決められた。 国谷先生から内々に班長をしてはみないかと打診されたけど、面倒になりそうな事は嫌だったので私はそれを断った。それならせめて副班長をやってくれと再度に頼まれたので、私はこれをシブシブと了承をしてしまったのが後々実にいけないことだったのだ。 パートナーの班長を決めるときに私は黒田くんを選んだ。彼は物事に真摯に真面目で冗談が通じないといった一面もあるけど、これを裏返すと責任感がある人物ということだ。このような人を班長と据えているのなら、副班長である私は楽ができそうだとそう踏んでいたのだ。 「ねえ美祈ちゃん。できたら私を選んでね」 班長と副班長が集まって班員たちを決める会議日に、クラスで親しい藤見さん以下たくさんの人たちがそう申し込んでいたけれど、なるべくそうするねとしか答えられなかった。選ぶことができる女子の1枠はメグで内定が決まっていたからだ。 「よし。各班ともも人は決まったようだな。あと残りの二人を決めなくてはならないぞ。まあ残り物には福がある、、、そうなるのはお前たち次第だけどな」 国谷先生は含みのある言い方でクラスの名簿が載っていた一覧のプリントを見てそう言った。見ると藤見さんもすでに取られていた。選んであげられなくてごめん。 「おまえらが選んだ残りの候補を見るとだ、、、おや? どこの班も希望しない人物がいるぞ。女子は小沼と男子は石城がそうなのか。まずこれをどうするかだな」 ウーン、藤見さんはもう取られちゃっているし、小保内さんが妥当かな。いやいや大江さんにするというのもありなのかも、などと私はこのときまで班長の黒田くんに議事進行を任せきりで、一人で暢気な考えに耽っていた。 「国谷先生。僕のほうから意見があります。聞いていただけますか?」 手を上げたのは第2班の班長を拝命した岡部くんだった。ちなみに第一班はわたしたちの班である。 「なんだ岡部、言ってみろ」 岡部くんは先生と周囲の視線が自分に集まったことに満足して、コホンと軽く咳払いをしてこう言った。 「石城くんと小沼さんのことです。僕はこの2人を第1班に推薦したいと思っています」 「ッ! ちょっと待った! 二人をこちらに押し付けるつもりか!」 黒田くんはこの意見に強く抗議の声を上げた。 「おや失礼。僕は第1班の黒田くんだからこそ任せられる、とそう言ったつもりだよ」 「思ってもいないことをいけもしゃあしゃあと、どの口がしゃべるんだ!」 バチンッ、ビリビリ、バチバチバチッ。 両者の目の間に火花が燃え上がった。 黒田くんと岡部くんはクラス内では一二を争う秀才同士。それでいつもクラス内では反発をしあっていた。このときも他の班長たちはまたかといった雰囲気の様子でこれをみていた。 「まて岡部。さすがに任せられるの一言だけでこれを済ますことは、黒田もこの俺もやすやすと了承はできんぞ」 「ご心配なく、理由なら他にあります。さあ皆さん、クラス名簿のプリントを今一度ご覧下さい」 国谷先生はそれがなんだ、というように訝しげに目を落とした。 「名簿一覧の名前のうしろに住所が書かれていますが、これを黒田くんと石城くん、向原さんと小沼さんとを比較して、何か気が付きませんか?」 「、、、んん、おや、、、そうかなるほど! 黒田は石城の向原は小沼、それぞれの家が近いのか!」 「はい御名答です」 岡部くんはニンマリとした笑顔でそう答えた。そんなに近いの、、、えっと、、、あ本当だ。黒田くんと石城くんは同じ町名があるし、私と小沼さんは町名は違うけど歩けばすぐ5分程度のご近所だ。 「この中学校は5つの学区から成り立っていることはご存知のことです。とくに北東側と西南側とは2つの学区を跨いで伸びています。黒田くんの家は古くからの最寄りの駅がある最北東に、向原さんの家は最近に高速道路などで開発をされた最西南にそれぞれがあります。黒田くん、ちなみにここまでの通学時間は何分になる?」 「歩くとおよそ、20分から30分といったところだ」 「回答ありがとう。向原さんもそれぐらいはあるのだろう? さて石城くんと小沼さんの2人が学校を休んだとして、学校から出された連絡プリントを」 「皆までもう言うな、よくわかった。石城と小沼の預け先はとりあえずは岡部の言い分通りに第1班に決定する」 国谷先生はみんなにそう下知した。これが私たち第1班の創生誕生の秘話だった。
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