005 美祈  side

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005 美祈  side

「お母さーん、お風呂が空いたから入ってもいいよー」 私はお風呂から出た後に、夕ご飯のあとで大小のタッパーに分けて詰め替えたり、食器の洗い物をしたりと目まぐるしく動いて、今はノンビリとリビングのソファにお父さんと共に座って、テレビのドラマを熱心に視ているお母さんに向かってそう呼びかけた。 「ありがとうねミキ。でもドラマがいま最高潮に面白いところだから。あそうだわ、お父さん悪いけれど、お風呂へ先に入ってもらってもいいかしら?」 「(キュッ、キュッ)ん? ああもうこんな時間なのか。そういうことなら、俺はお風呂を先にいただいてはやく眠るとするかな」 明日の早朝にゴルフに出かける予定のお父さんは、それまで熱心に磨いていた道具類をキャディバッグに丁寧に片付けるとスクッと立ち上がっていた。 「! ダメッ! ダメよッ! お父さんはイヤなの。ねえねえお母さんが先にお風呂へ入ってよ」 「もう順番なんてどうでもいいことでしょ。ほらほら今は本当にいいところなんだから、ドラマの邪魔はしないでちょうだい、、、ってあらミキ、また髪の毛が濡れているじゃないの。濡れたままだと風邪をひくからしっかりと拭きなさいよね」 お母さんは私をチラリと見てそう言うとすぐにテレビへと向き直って没頭を開始していた。立ち上がって所在なく一人でオロオロとしているお父さんを私は見かねると、 「、、、わかった、もういいわ。脱衣室でもう一度髪を乾かしてくるから、お父さんは私が呼ぶまでここで座って少しだけまっていてくれる?」 「ああ、もちろんだよ(ホッ)。ミキ髪の毛をよく乾かすんだよ」 そのように言って私は脱衣室へと再び戻ると、髪にドライヤーを吹きかけた後はリビングにいるお父さんに声を掛けて、二階の自分の部屋に入室するとゲンナリとして反省をした。 「ハァ。私ってば何をそんなにカリカリとしてるんだろ。自分自身の制御が自分でできないって、ほんとにイヤになっちゃうな」 ドレッサーの前に移動して髪を再度しっかりとタオルで拭き取り終えると、私はベットの上で大の字になって寝ころんでしまった。いったいいつ頃からなのだろうか。私が男の人に異性を感じるようになってしまったのは。 お父さんとお風呂へ入った最後の記憶は4年前の小学2年生のときで、あのころは異性を感じなかったのは覚えている。お風呂の順番も気にすることなんてなかったんだよね。 「、、、私が悪いのよ、ゴメンなさい」 先ほどのことを思い起こして、この場にいないお父さんに謝ってしまっていた。あんなふうに言うつもりはなかったの。でも私の入ったすぐ後のお風呂に異性が入ってくるのだと思ってしまったら、感情が突然にむき出しになってしまっていた。そんな自分がとても腹立たしくもあった。 チカ、チカ、チカ。 スマホに気がついて手に取ってみると、着信が届いているのを確認した。私はすぐにLINAを開けてみた。 あメグだ。なになに、、、 “いまいるの?(* ̄(エ) ̄*)” あー私ってばいままで、お風呂に入っていたから。 はい返信をポチポチと。 “ごめんねーお風呂に入ってたよ” ピローン 送ったらすぐに既読がついて返信がすぐにやってきた。 “よかった。今日の昼休み、先生とミキのお話の結果はざんねんだった、それとミキの剣幕に黒田くんがびっくりしてたよ” “せっかくにメグが考えてくれたトレード案だったけどザンネンね。このごろは心によゆーがぜんぜんなくて。メグも迷惑かけてゴメンネ” “しかたがない。いま班の女子は小沼さんの問題だけでも大変。なのに石城のメンドーまでゆるすまじ、男子は女子に迷惑かけるなと言いたい。ぜったい黒田くんの監督不行き届、処刑。死” “石城が私をガン無視続けてるのって、小沼さんに影響されちゃっているよね、あんなの二人も増殖したらとても困っちゃうよ” “石城、いまや女子全員の共通の敵。滅。このままBプランでいく?” Bプランというのは女子全員に頼んで石城に一切の無視をすること。ちなみにAプランは男子たちにも協力をしてもらって、クラス中で石城に無視をすること。ようは無視に無視で返すということだった。 “男子たちの、いまのところの賛同率は?” “捗らない。正直にまだ1/5といったとこ。石城の岩盤層は意外と厚いかも” “なら現状はこのままで。男子の賛同者が半分近くになったらそく決行で。女子なめてるとひどい目に遭うと思い知るがいいわ” “らじゃ。裏工作は引き続き私にまかせて” クフ、クフフフ。 私は心の内で石城を笑っていた。 見ていなさい石城、あんたが悔しがる顔に醜く歪むのはもうすぐそこよ。
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