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006 正太郎 side
俺はこの名前がきらいだ。
正太郎。正義の男と読む。
イマドキ、こんな古くさい名前もないだろう。
、、、訂正だ。両親がつけた名前に文句をつけるつもりはないが、名前の由来が自分と不釣り合いの気がしてならないからなのだ。
「おっはよーさん」
俺は登校して教室に入ったときに、誰ともなしにクラスメイトの男子たちへ声を掛けた。
「オッス」、「よう」、「はよー」
それに男子たちが口々に返事をかえしてくる。小学校が同じ出身の門脇くんがその友と共に俺に近寄ってきた。
「ん? なんだよ」
「たったいま、身長のことで仲間たちと話しこんでいたところでさ。ほら4月頃に身体測定があっただろ。石城は小学6年生のときと比べて何センチ伸びてたんだ?」
「ほっとけよ! 俺かなりきにしてるんだからなッ!」
「アッハッハ。身長がクラスで前から2番目だもんな。おまけに髪の色素は薄くて茶髪のようで、お目々はパッチリで睫毛も長い童顔、おまえもしかして体毛のほうも薄そうだな」
「門脇、喧嘩を売るならあとで買ってやるぞ」
俺はひどく凄みを効かせたつもりだったが、その様子は相手にとって脅しとも受け取られていなかったらしい。むしろ門脇くんはなおも顔を近づいてきて、
「いやちげえって。なにもけなしてるわけじゃないんだ、いや少し言い過ぎた、ごめんよ、、、あのさ実はこのまえ佐々木に聞いたんだけど、奴にもついに下の毛が生えてきたんだってさ。本人が言うのには、まあまだ一本伸びてるだけって話しだけど」
「佐々木っていったら、クラスの並び順で一番前の先頭にいるやつか?」
「そそ、そいつ。それで身長と下の毛の関係は一致がするのかって話題となってさ。で、お前のほうはどうなの?」
「そんなもん、知るかッ!!!」
「うわっ! キンキンとする大声を出すなよ、、、ああ、周りからものすごく注目を集めちゃっているじゃないか。ちぇ、この話はもういいよ」
門脇くんは顔をしかめながら立ち去っていった。ほどなく俺は目的である自分の机まで歩いてそこにカバンを掛けて席につくと、机にうつ伏せになって頭を被ってしまっていた。
「ああーくそ。またやっちまった」
俺は根っからの短気者だった。だからいまだにクラスにそれほど親しい人はいない。俺の気分は朝からブルー色に沈んでいた。
「ショータ、おはよ」
そこに突然と俺を呼んだ声がしたような気がした。
「あ? いったい誰なんだ」
キョロキョロ、キョロキョロ。
俺は頭を上げて周囲を見渡してみたけれど、目標の人物はどこにも見当たらなかった。クラスにいる人はまばらで定員の半分も集まってはいない。今クラスにいるのは遠方から学校へ通っている人が多い。近くに家がある人はこれから家を出る人もいるはずだ。
「幻聴か、、、女子の声のようだったかな。いまは女子の全員にハブられている身なんだから、女子の挨拶なんてあるわけが無いんだ」
ため息をついてから、俺はまたうつ伏せになり頭を被ろうとしたとき、
ツン、、ツン
「どひゃッ、うわッなんだ!」
背中に指で刺された俺は思わずびっくりとして声を上げた。
「あ、なんだ、小沼か」
俺が振り向くと、その後ろでうつ伏せになって隠れていたのは小沼だった。
「せいかーい。へええ、あなたって可愛い声を出すのね。ねえショータはもしかして、まだ変声期の前になるの?」
「変声期は未だきてねーよ。それよりも小沼、お前も一応は女子なんだろ。俺に話しかけていると女子たちから睨まれるぜ」
「心配してくれているんだ? でも残念。その女子全員から私はすでにデスられてちゃっているの」
「お前がそれじゃなんのためにって、ああもういいや、、、好きにしろよ」
「ショータ。まだ、おはようの返事を聞いてないから」
「おはようだ小沼、これでいいのか」
「んー、マンゾク」
「あそういえばお前さ、俺の名前を今度呼ぶときは名字で呼んでくれよ。おまえなんか恥ずかしくないの?」
「いーやーでーす。ショータはさっき、好きにしろっていってたでしょ」
「ハア、とにかくもう、お前とは喋らんし」
俺が体を前に戻して無視を決め込むと、背中でケタケタと楽しげに笑っている声が続いた。
小沼瞳(こぬまひとみ)。お土産屋さんでよく見るコケシのような女、ワンレンボブの髪型で頬にはソバカス、スタイルは細身でもちろん凸凹はない。女子のタイプでは珍しくも一匹狼のハグレモノで、話しかけてくる人には決まって無視を決め込む。しかし俺には普通に話す奇妙な女子だった。
ガラガラガラガラ
「あ、おはようーミキ」、「おはよん、ミキ」、「おっはー、ミキ」
チッ、来たな。
小沼を振り返って見ると、先ほどまで笑顔だった顔が途端に無表情の顔つきに変わっていた。
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